VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

SECRET WAR (Marvel, 2004-05)

 ふと気がつけばDC関連作品ばかりを扱っていたことに気づいた4回目。本日はMarvelから『SECRET WAR』を扱おう。
(大概のBendis作品と異なり)後々の物語にまで影響が波及した作品でもあれば、ドラマ『AGENTS OF S.H.I.E.L.D』のDaisyが初めて登場する作品でもあるのに、今ぱっと調べてみたところだと2017年1月の時点で未翻訳みたい。
 え、翻訳されてる?
 それはおそらく『SECRET WAR”S”』の方。間違えやすいけど間違えてはいけない。こちらは単数形。


原書キンドル合本版(Amazon): Secret War

 PowermanことLuke Cageが謎の人物から襲撃を受けて重傷を負ったことをきっかけに、Captain America、Spider-man、Daredevil、Wolverine、Black Widowといった一見関わりのないヒーロー達が次々と狙われ始める。鍵を握るのはNick Furyが過去に遂行した極秘任務のようだが…というのが主なあらすじ。私自身は#1、2、4、5なら以前から持っていたけど#3だけは最近になってようやく手に入れた。

 ライターは恐らく名前を聞いたことのある人も多いだろう、Brian Michael Bendis。彼については(特に近年)色々と不満がないこともないけれど、愚痴をこぼし始めるとキリがないのでここでは本作におけるライティングについてのみ言及する。
 良くも悪くもBendisの大きな特徴と言われるのが会話の洪水。本作でもそこは前面に出ているものの、ここでは比較的アクションとのバランスが取れている感じ。他方、#5でWolverineが突如激昂した時のように、プロットのためキャラクターを犠牲にしているような印象を受けることもしばしば。


 むしろ注目すべきはアーティストのGabriele Dell’Ottoです。普段はカバーのみを担当する彼(今も『Clone Conspiracy』のカバー担当してるんだっけか)がインテリアも手掛けた珍しい作品。もっと言うなら、巻末にイラストのピンナップも付いてたりして。彼がアートを手掛けてなかったら#3を手に入れようとは思わなかっただろう。リアル調ながらシャープな造形に躍動感溢れるアートは惚れ惚れする(あと、彼はMary Janeを可愛く描ける稀有な才能の持ち主。可愛いMJは正義)。


 話のテーマ自体は結構よくある話で、所謂「スーパーヒーローの政治介入をどこまで許すか」というやつ。当時のブッシュ政権にインスパイアされていると考えられなくもない。本作が2004〜5年、翌年から『CIVIL WAR』が始まったことを考えると、何だかんだ10年前がMarvelの転換期だったのかな、と改めて認識させられる。

 MarvelはDCと比べてより社会問題などに対して意識的であり、地に足が着いているという(今や半ば形骸化している)定評が謳われて久しいが、個人的な考えを記すとこの社会派スタンスはかなりの諸刃だと思う。
 結局のところ、現実と虚構というのは水と油だ。どんなにうまく取り繕ったところで、二つが完璧に混ざり合うことはない。ただ、水の中に油がふわふわと浮かんでいるラヴァランプのような状態に一瞬の魅力を感じるだけである。社会派ライターとして知られるAlan Mooreでさえ、リアルな政治や社会問題を物語に持ち込んだからではなく、その状況下における人間の精神を的確に描いたことが評価されているのだ。
 調子に乗って油を浮かべすぎるとごちゃごちゃして見ちゃいられない状態になる。それが90年代のMarvelであり、現在のMarvelだ。

 エンターテイメントに政治を持ち込むな、と言っているわけではない。娯楽や芸術は確かに1つの政治的手段であるし、政治や社会問題を完全に排除できるエンターテイメントなど存在しない(逃避としての娯楽も否定するわけではないが、そのような逃避のための作品でさえ読者ひいては世界に全く影響を与えないわけではないことは作品の作り手受け手の双方が念頭におくべきだろう)。
 だが他方で、政治的対立などからくる娯楽性だけを取り入れることは無教養である以上に無責任であり、それを行う創作者は無知蒙昧と言う他ない。
 創作者というのは自らの作品が現実世界に出ることの意義に対して常に自覚的であるべきだというのが私の考えだ。
 そろそろ愚痴っぽくなってきたので今回はここまでとする。


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