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VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

SPECIAL EDITON: MILLARWORLD

Others

Mark Millarという名前に聞き覚えのある方は結構多いんじゃないだろうか。『THE ULTIMATES』、『CIVIL WAR』など現在のMarvelにコミック実写の両方で多大の影響を及ぼし、オリジナル物でも『WANTED』や『KICK-ASS』といった作品が続々と実写化されているライターだ。現在のアメコミ業界を牽引する人物の1人であることは間違いないだろう。今回は俗に”MILLARWORLD”と称されている彼のオリジナル物いくつかをまとめて語ろうと思う。
 まず、『KICK-ASS3』(ICON、2015)の#8やその刊行直後に出たインタビューなどで明らかになった(取り敢えず私の所有している作品を中心に)各作品の繋がりについて整理してみよう。

・『WANTED』(Top Cow、2007):1986年に世界中のヴィランが手を組み、ヒーロー達を数で圧倒し勝利、戦後処理として人々の記憶を消去する。その後、ヴィランは政治経済のトップとして世界を影で操る一方、ヒーロー達はコミックや映画などの娯楽の中だけの存在とされるようになる。


Kindle版: Wanted (Issues) (6 Book Series)

・『JUPITER'S LEGACY』(Image、2013-):上記世界におけるコミックやその実写化映画。実は記憶を消されたヒーロー達の残像が結実したもので、最大のヒーローだったUtopianだけは実際に86年まで存在していた。『WANTED』の#2のラストで出てくるマントは彼のもの。


Kindle版: Jupiter's Legacy (Issues) (5 Book Series)

・『KICK-ASS』シリーズ(2008-15):転換期。失われた現実の残像だったコミックの世界に影響を受けたKick-AssやHit-Girlをきっかけに再びヒーロー(というかこの時点ではヴィジランテ)達が出現するようになる。


Kindle版: Kick-Ass (Issues) (8 Book Series)

・『SUPERIOR』(2010-12):『KICK-ASS3』のラストと本作の始まりが被っているため、直後の物語と思われる。


Kindle版: Superior (Issues) (7 Book Series)

 今のところ、はっきりと明言されているものの中で主要なのはこんなもんか。『KINGSMAN』(Icon、2012-13)とかはよくわからん。
 こうして改めて眺めてみると、Millarって確かに世界観を作り上げるのは上手。過去の記事から私がMillarの作品に対して必ずしも肯定的でないことにお気づきの方もいるかもしれないが、別に全部が全部ダメと言うつもりはない。少なくとも読者の気持ちを盛り上げるポイントを的確に突いてくることに関しては、他のクリエイターよりも頭一つ抜きん出ていると認めてる。

 じゃあ何が不満なのかというと、大きく2つが挙げられる。まず1つがそのでっかく広げた風呂敷に見合わぬ展開。プロット先行型と言おうか、彼の作品ってストーリーのためのストーリーでしかない。つまり、衝撃的な展開が必要だから主要人物の誰かを殺そうとか、弱さを見せないとダメだからしおらしいことをさせようとか、そういうクリエイターの意図みたいのがかなりあけすけに見える。だから登場人物はそのキャラクターに似合わぬ行動を取るし、話の腰を折るようなエピソードが度々挿入される。特に締めの部分に関しては唐突であるか冗長であるかのどちらかで『KICK-ASS3』などはシリーズを完結させるためだけに1冊丸ごと費やしたような印象を受けた。これは個人的な仮説だが、Millarがあちこちで公言しているように実写化を念頭に置いた作品づくりをしており、映画にしやすいよう話の尺だとか表現的な幅を(意図しているかはともかく)制限しているからだろうと思われる。

 そしてもう1つの不満。どちらかと言うと私がMillarの作品を読まなくなった理由はこっちの方が大きい。それは登場人物の態度が悪すぎるということ。これは暴力描写やスラングの多用などとは根本的に異なる問題で、私は看過できず読む気が萎えてしまった。
 例えば過激な暴力描写で有名なクリエイターとしては『PREACHER』や『THE BOYS』のGarth Ennisが代表的だが、彼の場合は股間を蹴り上げるのにも何かしらの意思表示めいたものが内包されているため違和感はない。(Ennisに関しては今後語ることもあろうかと思うので今はこの辺にしておく)。ところがMillarの場合、暴力にしても救済活動にしても意思表示というよりは自慢に近い自己主張が見え隠れしており、鬱陶しさが纏わりつく。登場人物の行動は一事が万事、未熟で身勝手だ。分かりやすく喩えるなら、モテない男のハーレム妄想+自分を振った女に対する復讐の物語といったところ。小便臭さが鼻について読むのに辟易させられる。

 先にも述べた通り、Millarは必ずしも悪いクリエイターじゃない。プロデューサー、もしくはエディターとしてなら、少なくとも読者の興味を唆るようなアイデアを出す才能はある。だが残念ながら私には今のところ彼がその素材をうまく料理できているとは思えないというのが現状だ。
 と、まあ。散々こき下ろしたものの、これはあくまでへそ曲がりな私個人の感想なのでMillarの作品をこれから読もうという人はあまり参考にせず、自分で読んで評価を下して頂きたい。