VISUAL BULLETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

『GODZILLA: THE HALF-CENTURY WAR』(IDW、2013)

2016年は『シン・ゴジラ』で大変楽しませて頂きました。どハマりして設定資料集も買っちまったし、Blu-Rayも待ちきれませんな。
 さて、そんなゴジラだがハリウッド版が作られることからも分かる通り、海外でも大きな人気を誇っている。人気コンテンツがメディアを跨るのは万国共通で、ゴジラもまた映画のみならず昔から幾度もアメコミになっている。それも単純なアダプテーションではなくオリジナル・ストーリーで。
 1954年に初上陸したゴジラと邂逅した自衛官Ota Murakamiの以後半世紀に渡る戦いを描いた本作『GODZILLA: THE HALF-CENTURY WAR』もそんなアメコミ版のオリジナルゴジラだが、これが良くできている。


原書: Godzilla: The Half-century War

 ストーリーとアートはJames Stokoe。主にインでペンデント系(たまにMarvel)を活躍の場とし、独学で絵を学んだという彼の絵柄は必ずしもスーパーヒーロー向けとは言い難いものの、ダイナミックな構図や描き込みの細かいことなどから知る人ぞ知るクリエイターとして知られている。てらはきには本作が彼の初作品だが、以前からImageから出ている『ORC STAIN』やOni Pressからの『WONTON SOUP COLLECTION』などの作品紹介をネットで目にしては読みたいと常々思っていた。

 読む前はスクリーンの銀幕でばかり観ていたゴジラがコミックとしてページの上ではどんな広がり方をするのかについて、特に迫力と、ひいては怪獣に対するアプローチという点について半信半疑だったというのが正直なところ。特に後者に関しては2014年に公開されたハリウッド版『GODZILLA』が守護神的な描かれ方をしていて、形はゴジラなのに中身は平成ガメラというちぐはぐな印象を受けたので、また日本人の目から見て違和感の生ずる描かれ方がされているのではないかという不安がないではなかった。

 杞憂でした。

 まず、Stokoeのアートが怪獣ものと抜群に相性が良い。特に描き込みの細かい市街地破壊シーンには特撮と異なる独特の迫力がある。怪獣同士の戦闘シーンなどについても巨大生物らしい質量感ある戦いが展開される一方で、動物的な瞬発力が垣間見えてはっとさせられることがしばしば。CGには表現できない深みを醸している。

 ストーリーについても非常に良質だ。ゴジラに執念の炎を燃やすMurakamiはじめ彼の所属するA.M.F(Anti Megalosaurus Force)の面々にも怪獣達と等しく活躍の場が与えられており、アメコミならではのグローバルなアイデアがふんだんに盛り込まれている。当初不安だった怪獣に対するアプローチについても申し分ない。Stokoeは怪獣について東宝の伝統的なメタファーを継ぐ一方、人間に関しては米国的と言おうか必ずしも日本的ではない独特の精神で描いている。とりわけMurakamiとゴジラの関係性には、これまで日本でもハリウッドでも見たことのない結論が用意されており、これには感服した。

 ゴジラが初上陸したのは日本だが、ゴジラにしてみれば日本はある時点で通り過ぎた場所の1つでしかない。それと同様、ゴジラが生まれたのは確かに日本だし、あの戦後日本という土壌が生んだ存在であることは間違いないが、だからといって今やゴジラは日本だけのものではない。だからアメコミでもハリウッド映画でもゴジラが様々な形で世界中に出現することは良いことではあれ、悪いことではない。
 ただ、怪獣という呼称に含まれているのは”巨”でも”猛”でもなく”怪”であるということを見落としているクリエイターがあまりに多い気がする。
 そんな中、本作は間違いなく”怪”獣を描いたといえるだろう。