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VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

『MARVEL 1602』 (MARVEL, 2003-04)

Supermanをソ連に送り込んでみたりSpider-manをインド人にしてみたり、アメコミの一発ネタで頻繁に出てくるのが同じキャラクターを別の舞台に移す、俗にElseworldsなどと呼ばれるもの。ちょっとメインの世界と時系列が異なるだけのものから、時代から場所までガラリと変えてしまうものまでピンキリだけど、特に後者については背景こそ違えど話の展開はさほど変わらないのが大概なので「これは」というものに巡り合うことは滅多にない。そういう意味だと本作『MARVEL 1602』には読前の予想を大きく裏切られた。


原書(Kindle版もあり): Marvel 1602

 エリザベス1世統治下の16世紀英国を舞台にMarvelユニバースでお馴染みのキャラクター達(正確には並行世界の似て非なる存在)が十字軍の残した遺物や新大陸からやってきた謎の少女(とその連れ)などを巡って冒険を繰り広げる本作。日本で2016年1発目のMCU作品として近く上映されるDoctor”奇天烈博士”Strangeもバッチリ登場して活躍します。

 ライターは先日『BLACK ORCHID』でも取り上げたNeil Gaiman、レタリングも再びTodd Klein。アートはイラストにAndy Kubert、カラーにRichard Isanove。この2人はウルヴァリンの出生を描いた『ORIGIN』などで頻繁にタッグを組む。Kubertの描く顔は凹凸が少なく癖がないため見やすい代わりに表情がのっぺりとしている印象を受けることがあるものの、陰影が濃くぼかしたような色の塗り方をするIsanoveのおかげであまり気にならない。現代や未来を描くのには向いていないかもしれないが、荒涼とした空気を全体に漂っている本作には良く合っている。Fantastic Fourの面々が大変格好いい。


 この作品に関して、てらはきは積極的に買い求めたわけじゃなく旅行先の小さな本屋で偶然見つけて買ったのだけれどこれが大穴でした。要所要所でしっかりと本来のMarvelユニバースにシャッポを傾け、かつこの世界観オリジナルの展開を見せる。それどころかSF的な方法で両世界間の繋がりまでをも見せつけ、流石はファンタジー作家としても世界的に名を馳せるGaimanだなと認識を新たにさせられた。

 コミックのライターとしてGaimanの優れているところを1つ挙げると、彼の作る話はページを適当に開いてもすぐ分かる通り、文章の量が多いにも関わらずそれがほとんど苦に感じない点にある。一般に本を出版したことがあるなど文学的バックグラウンドを持つライターがまま陥りやすい罠に、文章を詰め込みすぎて話の勢いを削いでしまうというのがある。特にアクションが見せ場のスーパーヒーロー物でこれをやると読者は小難しい印象を受けるか、或いは無駄な会話に退屈してしまう。

 Gaimanのライティングもまた昔から一貫して文章量が多いものの、だが彼の文章について読むことを面倒だと思ったことはない。それは台詞が話の流れやキャラクターの同調したものであることに加え、1つ1つの受け応えが単なる無駄口ではなく物語を推し進める役割を担っているからであるからだろう。
 言うまでもなくキャラクターというのは物語の重要な要素だ。特に1人1人がシンボルであるスーパーヒーローでは最重要要素と言っても過言ではない。キャラクターがしっかりと確立されていればこそ舞台を全くの別世界へ移しても魅力は変わらないどころか別の魅力が見えてくることを本作で気づかされた。


Kindle版(分冊): Marvel 1602 (Issues) (8 Book Series)