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VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

『MARVELS』(Marvel, 1994)

Marvel

 今回は扱う作品はMarvel屈指の名作『MARVELS』。
 全ては1939年のニューヨークで始まった…。


原書合本版(Kindle版もあり): Marvels

 若き報道カメラマンPhil Sheldonは取材先で発火する人造人間Human Torchを目にしたことをきっかけに、次々と出現する不思議な力を備えた超人達Marvelsに魅了されるようになる。やがて戦争が終わると共にMarvels達は姿を消すと、Philもまた家庭を持ち、順調にキャリアを築きあげていたが、Fantastic FourやAvengersといったヒーロー達の出現を機に再び彼らを追うようになる。だが、複雑化した世界は必ずしもMarvelsを歓迎するわけではなかった。

 ライターのKurt BusiekとアーティストのAlex Rossは両者とも本国のみならず日本でも有名なクリエイターだ。前者はDC、Marvel両社のスーパーヒーロー作品に数多く携わっているし、自身のオリジナル作でもスーパーヒーロー達が市民として暮らす街を舞台にした『ASTRO CITY』などがある。後者もまた、その写実的な画風で一世を風靡したクリエイターである。スーパーヒーローの実写映像化作品が増えるに従い、彼のリアリスティックな絵は工夫がなく面白みが欠けるという意見を見かけたことがあるものの、そういう者は彼のアートを正しく捉えていない。確かに彼の絵にはカートゥーン的な表現は見受けられないものの、その分構図や表情の機微、あるいは淡い色使いなどで的確に人物や背景を描き出している。晴れた日に燦然と立つ超人の姿を彼ほど格好良く描くことは、実写でも不可能だ。いかにも手作りしたようなSpider-manの衣装は、彼の絵でしか見ることができない。

 本作の主人公であるPhilは読者の分身だと言えよう。Philは当初こそ派手な衣装を身につけた不思議な力を持つ者達を追いかけることに無我夢中で、その結果片目を失っても平気といった風だったものの、ミュータントに対する差別を目にしたことから迷いが生まれ、最終的にかつての情熱は破綻を迎える。それは読者が初めてコミックを手にしてスーパーヒーローと出会ってから、やがて卒業して去っていく姿そのものだ。

 だが本作を読むに当たってはもう1人、注目に値する人物がいる。 

 それは我らがDaily Bugleの編集長、J. Jonah Jamesonである。
 彼は初めてHuman TorchやSub-marinerが出現した時からMarvelsの存在に熱狂する世間から一歩退いた目線で彼らの存在を社会に対する脅威として捉えており、その態度は時を経て頑なになることはあっても一度として曲がることはない。

 こうした彼の態度は必ずしも理解不能ではない。彼にしてみれば、生まれつきや事故実験で得た能力を備える者達ばかりが賞賛され、医者や警察官といった日頃から地道に活動している人々が称えられないどころか”普通”扱いされる社会は我慢ならないのだ。とりわけ(本作では言及されてないかもしれないが)彼の息子は宇宙飛行士だ。息子が努力に努力を重ねてようやく宇宙へ飛び立てたというのに、派手な衣装を身につけて街を跳び回っているだけでAvengersの友人と毎日のように宇宙遊泳ができる蜘蛛男の存在など彼には断じて認められまい。

 彼がSpider-manを敵視しているのは個人として憎んでいるからではない。人々が”親愛なる隣人”との間に超えられない壁があることを認めた時のことを恐れているからだ。

 実に本作が示しているのは、フィクションとしてMarvelユニバースを見る態度と、現実にMarvelsのような存在が出現した時に我々が取り得る態度との違いではないだろうか。

 追記:若き日のJamesonを主役に据えて、ゴールデン・エイジのMarvelユニバースで事件を追うみたいなノワールやったら面白いと思うんだけどなあ。


邦訳版: マーベルズ (ShoPro Books)