VISUAL BULLETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

『ANIMAL MAN』(DC/Vertigo, 1988-90)

本日ご紹介するのはメタな展開で有名な作品『ANIMAL MAN』


Kindle版: Animal Man (1988-1995) (Collections) (7 Book Series)

 SNSやネットの掲示板でアニメや漫画の感想を覗いていると、キャラクターがメタな発言を一言口にしたばかりに作品全体の質が著しく損なわれたかのような発言を目にすることがある。
 まるで何かを恐れているかのようだ。

 好きなライターを五人挙げるとしたら必ず入る人物であると同時、語るに最も苦労するのがGrant Morrison。独特のテンポ、癖のあるキャラクター、物語はメタと非メタを行き来し、複雑怪奇に展開する。ページの密度が通常のコミックの数倍あるため、1度読んだだけでは何が起こってるのかを把握しきれないことがままある。
 最近Boom Studiosから発刊された『KLAUS』やVertigoから出ている名作『WE3』などは比較的分かりやすいが、それもあくまで話を追いやすいというだけで、細部を分析してみると視覚的な仕掛けが組み込まれている場合が多く、分析し始めるとキリがない。
 今回はそんな彼のDC初期代表作『ANIMAL MAN』を扱おう。

 若い頃に不思議な宇宙船と接触したことが原因で近くにいる動物の力を模倣する特殊能力を手にいれたBuddy Baker a.k.a Animal Man — これまでは気が向いた時に活動するパートタイムのB級スーパーヒーローだった彼だがある日、本格的にヒーロー活動することを決める。

 最初は分かりやすく、徐々にメタを混じえて最終的に読者を振り切る安定のMorrisonスタイルはこの頃から既に確立されている模様。

 本作がVertigoレーベルの中へ組み込まれたのはMorrisonがライターの座を降りてからだけれど、以前から存在していたマイナーキャラをプチ・リブートする手法は以前紹介した『BLACK ORCHID』と同じかと思われる。

 また、これも以前紹介した『CRISIS OF INFINITE EARTHS』に登場したPsycho-Pirateのその後が描かれていたり、『FINAL CRISIS: SUPERMAN BEYOND』で活躍するLimboのキャラクター達もここで(多分)初登場を果たすため、Grant Morrisonというライターを理解する上でも重要な要石となっている。Ayahuascaの描写などは『INVISIBLES』に通じるものがありますね。

 Animal Manがページ越しに読者の存在に気づいたり、Morrison自身が登場したりするなどメタっ気溢れる展開が有名な本作だけれど、その方針が初めて現れる#5はクリエイターへ抗議したばかりに本作の世界観へ放り出されてしまったカートゥーンのキャラクター(おそらく元ネタはLooney TunesのWile E. Coyote)の悲劇を描いており、シリーズの転換期であると同時にしんみりくる良作だ。

 最近、初音ミクをVR技術で思い通りに操っている動画をネット上で見かけたが、あれを見た時この話が思い出されて複雑な思いがした。
 キャラクターを操作する時、人はそのキャラクターにとっての神となる。そこではあらゆることが可能で、取り返しのつかないことなど何1つない。けれどそれはあくまでその者とキャラクターとの間のみのやり取りであって、第三者の目には奇行としか映らない。

 物語というのはこちらの世界とあちらの世界を隔てるフィルターであると同時に、その双方にのみ向いていたコミュニケーションを第三者にも理解可能な形へ変換するカメラのフレームだ。
 話にメタな展開を持ち込むというのは、物語のフィルター性を取り払いながらフレーム性を保持するという少々ちぐはぐな手法であり、残るのは他人の人形遊びを見ているかのような居心地の悪さである。メタな展開が苦手な人というのは物語の複雑さ以上に、そのことを本能的に理解しているのかもしれない。

 Morrisonがそのテーマへ本格的に取り組むのはもう少し後の作品でのこととなるが、本作にも既にその片鱗は覗いている。


原書(プチ鈍器)合本版: The Animal Man Omnibus