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VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

『THE AUTHORITY VOL.1』(DC/Wildstorm, 1999-2000)

DC/Wildstorm

 世界の平和を守るスーパーヒーロー。
 こう聞いて違和感を抱いたことのある者はどれだけいるだろう。
 言い方を変えてみよう。
 社会の秩序を守るスーパーヒーロー。
 社会の秩序を維持する超人的な存在。
 社会の現状維持に務める超人的な存在。
 そろそろ何かが矛盾していることに気付くだろう。


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 異星生物の襲撃により解散へ追い込まれた特殊能力部隊Stormwatch — 隠密部隊Stormwatch BlackのリーダーだったJenny Sparksはだが、密かに独立して「世界を良い方向へ導く」ための新たなチーム”AUTHORITY”を創設する。

 と、いうわけで今回の題材は90年代までのスーパーヒーローというジャンルを包括した1つの到達点となる作品『THE AUTHORITY』です。
 なお、ここではライターWarrren EllisとアーティストBryan Hitch、それにカラリストのPaul Nearyが担当した#1−12のみを扱う。Mark Millarによる続編に関しては未読なんでスルー。強いて言及するなら、Ellisを除いたアーティストの2人は後にMillarと組んでMarvelで『ULTIMATES』を連載するよ、とだけ。

 では本題に移ろう。
 まず、タイトルを見てほしい。
 ”Authority” = ”権威”。
 ”守護者”でも”報復者”でも”同盟”でもない。なんと威圧的な名前だろう。まるで守るはずの世界を見下しているかのようではないか。

 事実、メンバーの多く、とりわけリーダーであるJenny Sparksの態度はいたずら小僧に手を焼く母親のそれだ。20世紀(正確には-1年)が始まると同時に生まれ、過去100年に渡り世界を眺めてきた彼女にしてみれば、次から次へと問題を引き起こす人類はトラブル・メーカー以外の何物でもない。
 いい加減、尻拭いは疲れ果てた。でも、見捨てることはできない。
 なら、どうするか?
 クソガキには礼儀を叩き込むしかない。

 チームのメンバーはSparks始め、Stormwatch Blackから都会人類Jack Hawksmoorと鳥人Swift。これに『STORMWATCH VOL.2』で言及した強化人間のApolloとMidnighter、さらに人間と機械のハイブリッドEngineerとシャーマンのDoctorが加わった7人。

 各々単独でも軍隊並の力を備えている彼らが立ち向かう脅威は、スケールがそもそもStormwatchの頃とは比べ物にならない。最初は国1つ、次は別世界まるごと、最後には創造神をも相手にする。
 勿論、Stormwatch時代のテキパキとした動きや、キャラクターの適材適所といった魅力は何一つ損なわれていない。むしろ強大な相手に合わせてこちらも効率を上げねばと言わんばかりの的確さで立ち回る。


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 ここにいるのは何かあればすぐに喧嘩をするパッチワークの”家族”でもなければ、仲良しグループの”友達同士”でもない。
 バックグラウンドこそ違えど、互いが互いをその道のプロフェッショナルとして認め合う”同志”だ。故に彼らは脅威を前にしていがみ合ったりなどしない。各々の意思を尊重した上で集約及び取捨選択し、危機に対処する。

 そして彼らはただ世界を守るだけではなく、実際にその趨勢を変えていく。
 傲慢とも取れるかもしれない。実際、世界を方向修正するために敵を殺すことも厭わず、終いには(別世界ではあるが)脅迫さえするチームのやり方に一抹の不安を抱くメンバーもいる。

 だが、よく考えて欲しい。
 常人にはありえない特殊能力を持つ彼らは自身の存在そのものが社会を大きく変える可能性を持つ。にも関わらず、社会の現状維持に務めるスーパーヒーローは、その存在と行為が大きく矛盾していると言える。
 息をするだけでも世界を根底から覆しかねない彼らに現状維持など不可能だ。否、それは決して彼らスーパーヒーローだけではない。ページの外にいる我々だって刻一刻と世界に微細な変化を引き起こしている。
 ならば、本来行うべきは現状維持でなく、その変化の矛先を少しでも良い方向へ向けようと試みることではないだろうか。

 実はスーパーヒーロー物で傑作と呼ばれる作品の多くはこの問いをテーマに据えている。
 本作はこの問いに対し、Ellisらしい実効的なアプローチを取った作品と言えよう。


原書Kindle版: The Authority (1999-2002) (Collections) (2 Book Series)