VISUAL BULLETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

『SECRET INVASION』 (Marvel, 2008-09)

”Who do you trust?(君は誰を信じる?)” — 簡単な言葉から成る問いほど答えにくいものはない。
 人は生きている限り星の数ほどの裏切りに遭う。それははっきり自分に向けられた刃であることもあれば、単なるボタンの掛け違いでしかないこともあるが、裏切られた時に受けた傷は時を経て癒えこそすれ、完全に消えることは決してない。一度抱いた疑いの感情は永遠に残る。
『SECRET INVASION』=『隠れた侵略』はそういう物語だ。


原書Kindle版: Secret Invasion


 侵略はいつでも来るべくして、だが突然に始まる。死亡したElektraの正体が変身能力を備える異星人Skrullだったことを知ったヒーロー達。Civil War後にTony Stark a.k.a Ironman率いる法を遵守するチームとLuke Cage率いる非合法チームとに分裂したAvengersの面々はSkrullの宇宙船が難破したSavage Landにおいて対峙するが、それは地球の守護者達を陥れるための罠でしかなかった。同じ頃、世界中で侵略が始まる…。

 個人的にはNew Avengers時代におけるライターBrian Michael Bendisのピークだったかと。『HOUSE OF M』も面白いには面白いんだけれど、なにせあちらはScarlet Witchの作り出した異世界の話なのでコレジャナイ感があったというか。
 本作は全員見慣れたコスチュームだし、ニューヨークの市街戦だし、もっと言えば敵対していたヒーロー達のみならずヴィラン達まで一致団結して最終決戦に望む展開とか、緊張感は明らかにこっちの方が上。#6ラストにおけるStarkのかけ声にはワクワクが抑えられなかったぜ。
 あ、『CIVIL WAR』だと小物臭半端なかったMaria Hillが今回はタフな軍人らしい活躍をしていたのも好印象。

 Bendisについては、自分が現在ライティングを担当している作品に関しては積極的に取り入れる一方、過去に手掛けた作品や他ライターの作品についてはほとんどフォローしないため矛盾があちこちに生じるという評を目にしたことがあるが、本作に限って言えばかなりの作品をカバーしていたかと。
 ぱっと思いつくだけでも過去にAvengersがSkrullと対峙した『Kree-Skrull War』に、#3のラスト鳴り物入りで登場したNick Furyがそもそも失踪したきっかけである『SECRET WAR』、更にNorman Osbornが最初に法の番人として出てきたWarren Ellisの『THUNDERBOLTS』等々。予備知識はそれなりに要求されるものの、その分見返りの多い展開となっていたかと思われる。

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 Leinil Yuによるアートははっきりとした輪郭や、幾重もの線を引く独特の陰影などが特徴的。とりわけ少しごつい感じのキャラクターに戦闘シーンで勢いが加わって迫力のある出来に仕上がっている。決戦の敵味方入り乱れた見開き絵は圧巻の一言で、以前ここで述べたことのある別の『SECRET〜』の見開きとは雲泥の差だ。筋肉フェチな私には、Wolverineのような筋肉ダルマ系も大変カッコ良ければ、Shannaなどの女性的な筋肉も美しかった。
 
 カバーアートのGabriel Dell’ottoも相変わらずいい仕事してる。#8のカバーなどは特に個人的なオール・タイム・ベストの1つ。光を背景にしたヒーロー達の佇まいは本来彼らがあるべき英雄のそれだ。


原書合本版: Secret Invasion

 ただ、残念ながら本作においてこのカバーが如き姿は実現しない。のみならず、この話よりもう少しの『SIEGE』で形だけなら彼らは一枚岩となるものの、今もってMarvelのスーパーヒーロー達は互いの信頼関係が回復しているとは言い難い。彼らがつい最近まで再び2つに分かれて戦っていたことにも、そのことは現れているだろう。
 今度も宇宙規模の危機か何かで彼らは再び形だけ1つになるのかもしれない。
 だが、そうしたところでまた破局へのカウントダウンが始まるだけだ。
 信頼関係の壊れた仲間同士を結びつけるのは危機や悲劇などではない。
 地道な対話の積み重ねではないだろうか。


邦訳版: シークレット・インベージョン (MARVEL)