VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

『THINK TANK VOL.1 』 (Image/Top Cow, 2012)

 資料を収集しているうちにFBIから2度も目を付けられたという曰くつきの作品がこちらです。 


原書合本版(Amazon): Think Tank Vol. 1


 14歳の時にDARPA(アメリカ国防高等研究計画局からスカウトされて以来、これまで幾つもの天才的発明を生み出してきたDavid Loren博士 — だが自らの研究開発が人を殺すために軍事利用されていることへの良心の呵責に耐え切れなくなった彼は、遂に長年軟禁されていた施設から脱走する計画を実行へ移すことを決める。新しく彼の監視役となったHarrison大佐率いる米軍はそんな彼を捕縛しようとするが…。

 本作の魅力はまず何と言ってもそのリアリティ。Top Cowレーベルの最高責任者の1人であるMatt Hawkinsはライターとしても抜群の実力を誇る人物であり、その並大抵でない量の調査量には定評がある。例えばDavidの仕掛けるバイオハザード・トラップに対する軍の動きも実際の政府マニュアルを元にしているし、「人を意のままに操るガス」や「透明スーツ」といった彼の発明品もまた全て最新科学に裏打ちされている。
 そう、この作品に登場する発明品は現実にもう存在している、あるいは存在し得るのだ。

 Hawkinsの調べた中身は巻末に載っているコラム『SCIENCE CLASS』においてその一部を辿ることが出来るが、科学ジャーナルのサイトは勿論のこと、DARPAやスタートアップ企業のHPまで様々なネット及び文献資料を参考にしていることが見て取れる(このコラムだけでも十分面白い)。 
 最初に述べたよう、化学兵器や最先端機器の調査に没頭するあまり終いに治安当局からテロリスト予備軍と間違えられて取り調べを受けたというのだからその凄まじさが窺い知れよう。
 一方でHawkinsのライティングはひたすら情報をひけらかす知識オナニーにはならず、Davidの発明の数々をしっかりとストーリーの中へ組み込んでいる。物語のテンポも良ければ台詞も自然。Hawkinsは立場上DCやMarvelでの仕事がないため知名度が若干劣るも、もっと高く評価されるべきだと個人的には常々思っているクリエイターだ。


分冊キンドル版: Think Tank #3

 ストーリーの共同制作者であると同時にアートを担当しているRahsan Ekedalはインクの使い方が非常に上手。本作はアメコミだと少々珍しいモノクロ作品だが、彼はツートンカラーの濃淡だけで巧みに色を表現しており、スカスカでもなければコテコテしてもいない適当な密度の絵柄に仕上がっている。派手なコスチュームを身に着けたスーパーヒーローが殴り合うような作品と異なり、本作のように一見そこらに転がってそうな主人公の場合はこれで十分こと足りる。むしろ登場する発明品の多くがまだ試用段階で色もへったくれもないため、下手に色をつけると見づらくなってしまったかもしれない。

 ネット、スマホ、VR……現代の我々はかつての先人たちが想像もつかなかった未来を生きている。一方で掌に収まる画面へ気を取られ過ぎるあまり、広い世界や先の未来を見通す視力が衰えているという意見もある。
 手の中にある機械、目の前にある世界だけが現実じゃない。少し好奇心と想像力を使えば、もっと先を走っている現代が見えてくるのだと、この作品は教えてくれる。


分冊キンドル版: Think Tank #1