VISUAL BULLETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

『PHONOGRAM VOL.1: RUE BRITANNIA』 (Image, 2006-07)

 まず最初に断っておくと、私は音楽に関してそれほど詳しくない。国内でさえランキングがどうなってるかなど興味はないし、ましてブリット・ポップなどOasisRadioheadの曲を数曲耳にしたことのある程度だ(Coldplayってはてブリット・ポップだったか知らん)。
 その上で。
 流されやすいと笑われても構わない。俄然、聴きたくなってきた。


分冊キンドル版: Phonogram #2 (of 6) (Phonogram Vol. 1: Rue Britannia)


 音楽が魔法と同義であるイギリス。音楽魔術師(Phonomancer)のDavid Kohlはある日、音楽の女神にかつて自らの魔術的パトロンで今は死亡している筈のブリット・ポップの化身Britanniaを探せとの依頼を受ける。Davidは友人らと共にBritannia復活の謎を追うが、それは同時に自らの過去を清算する旅でもあった……。

 Kieron GillenとJamie McKelvieといえばMarvelから刊行された『YOUNG AVENGERS』や本作と同じImageから現在刊行中の『THE WICKED + THE DIVINE』などでお馴染みのペアだが、2人が初めてペアとして本格的にコミックを作り業界から注目を浴びたのがこれ。それまでゲームライターだったGillenはこれを機にコミックへ軸足を移していくことになり、McKelvieもMarvelなどのメジャーな出版社から声がかかるようになる。

 本シリーズはこれの後に第2弾『THE SINGLES CLUB』、第3弾『THE IMMATERIAL GIRL』と続くものの、各巻は世界観を共通にしている別作品であり(巻と巻の間でかなり時間も空いてるし)、本巻もリーフ6冊分の合本1冊で完結している。

 最初にも述べた通りブリット・ポップに関しちゃ知識ノータリンな私には、本作に登場するバンドや曲に関しては全くついていけず、そういう意味で多少のハードルはあった。
 しかし、だからといってこの作品が心に響かないとは言わない。
 歌詞を知らなくとも曲を楽しむことはできる。


分冊キンドル版: Phonogram #1 (of 6) (Phonogram Vol. 1: Rue Britannia)

 
 音楽をテーマにした作品自体は別に珍しくない。有名どころでは実写化もされた『SCOTT PILGRIM』シリーズがあるし、何年か前には『THE FIFTH BEATLE』なんてのもあった。日本だとアイドル物ブームと相まってそこら中に溢れかえっているような印象だ。
 しかし、こういった作品はどれも”演奏する側”を描いたものである。本作のように”聴く側”へスポットライトを当てた作品というのはちょっと珍しい。当然といえば当然だ。人々が憧れるのはステージの上で歌って踊るスターであり、その下で歓声に湧いているだけのモブにどんなドラマがあるというのか。
 GillenとMcKelvieは本作でそんな問いかけにクソ喰らえを突きつけてくる。
 音楽は演奏する側だけのものじゃない。楽器を持っていなくともiPodがある。コードなど知らなくても気分に合った曲を選ぶことはできる。曲を耳にして昂ぶった感情や口を突いて出た旋律は自分だけのものだ。


分冊キンドル版: Phonogram #6 (of 6) (Phonogram Vol. 1: Rue Britannia)
 

 本作で描かれているのはそんな”聴衆の音楽”だ。
 PhonomancerのDavidは音楽で魔術を起こすものの彼自身は一度たりとも演奏しない。時にクラブへ足を運び、時にレコードを回し、時にイヤホンを耳に差し込む彼はひたすら音楽を聴く側の人間だ。しかし、そうしながら事件を追う彼の歩みは確かなビートを刻んでいる。
 
 単に演奏者という”神”から聴衆へ伝わるだけの一方通行であったなら、音楽なんて文化は遥か昔に廃れていただろう。
 しかし、私達は”神”から受け取った恵みをただ恵みのままでは終わらせようとはしなかった。自分の中に取り入れ、時に作り変え、そして更に外の世界へ伝播させていくことを選んだ。
 そう。演奏者が”神”なら、聴衆は誰もが”魔術師”なのだ。


原書合本版(Amazon): Phonogram: Rue Britannia