読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

『INJECTION VOL.1』 (Image, 2015)

 未来に変化を望む者は多い。
 だが、そのうち未来に変化をもたらそうと動き出す者はほんの一握りだ。
 そして、実際に未来に変化をもたらすことができる者はそのさらにほんの一摘み。
 時々、それを受け取る資格が我々にあるのかと疑問に思うことがある。


原書合本版(Amazon): Injection Vol. 1


 科学者のMaria Kilbride、カニング・フォーク(土着の魔術師的な存在)のRobin Morel、諜報員のSimeon Winters、ハッカーのBrigid Roth、そして探偵のVivek Headland — 官民共同プロジェクトの一環で人類の未来を評価すべく集められた5人のスペシャリスト。しかし、今後人類の文明は頭打ちになるという結果に落胆した彼らは、そこで世界に揺さぶりをかけるべくそれぞれの分野の粋を集めた人工知能”INJECTION”の開発に着手する。
 年月が経ち、現在。解散したチームの各メンバーに対し、解き放たれた人工知能が再び接触を図ろうとする……。

 クリエイター陣の構成はライターのWarren Ellis、アートにDeclan Shalvey、そしてカラーにJordie Bellaireと2014年にMarvelで『MOON KNIGHT』を制作したチーム。でも主に路地裏を舞台にしたあちらと世界中で展開されるこちらとではかなり趣が違う。


分冊キンドル版: Injection #1

 ストーリーに関してはEllis節全開と言いませうか。『TRANSMETROPOLITAN』や『IRONMAN: EXTREMIS』の印象が強いせいか一般に彼はSFのイメージがかなり強いものの、『CRECY』みたいな歴史物を書いていることからも分かる通り何気に歴史や文化に対する造詣もかなり深い。本作はカニング・フォークなどの要素が入ることで彼の歴史マニアな一面が垣間見えると同時に、これまでのSF系作品とは少々異なる雰囲気を作り出すことに成功している。

 ついでに言うと未来を評価するフューチャリストに関する話題はEllisが昨年出版した小説『NORMAL』でも取り扱われており、扱う未来の分野には差異があるものの、本作と併せて読むと面白い発見があるかもしれない。併せて読まなくとも十分面白いし、薄くてさっと読めるのでオススメ。

 アートについてもShalveyとBellaire、各々の才能を堪能できるシーンがそこかしこにある。
 まず、『MOON KNIGHT』#5で見たようなShalveyのスタイリッシュ&ブルータルなアクションに魅了された者なら本作#2におけるSimeonのホテル襲撃シーンは必見だ。最低限の装備と最小限のアクションで敵を排除する戦闘のミニマリストっぷりには惚れ惚れする。もうね、敵にフライパンで頭殴られてキッチンに重ねられた皿の上へ顔から突っ込む描写でさえカッコイイ。


分冊キンドル版: Injection #2

 Bellaireの燻したようなカラーを堪能できるのは#3でRobinが精霊と対峙する見開きシーンだろうか。舞い散る葉々のそれぞれに色の濃淡が丁寧に施されており、立体感のある絵に仕上がっている。他にも過去と現在でパネルのベースとなる色を使い分けるなど、彼女が細かな工夫でストーリーテリングに貢献していることが窺える。


分冊キンドル版: Injection #3

 本作の人工知能”INJECTION”は”人と異なる高度な知性”を有した存在だ。考えてみれば人工知能だからといって人間と同様の思考回路を持つ必要はない。既存のあらゆる生物とも異なる全く新しい知性でも全然構わないわけだ。
 そういう意味で本作はもう現実にもすぐそこまで来ている人工知能の脅威を描くSFサスペンスであると同時にファーストコンタクト物としても成立しており、『2001年宇宙の旅』や『地球爆破作戦』などの系譜に連なる作品群の最先端を走っている作品と言えよう。
 ここからさらにどのような飛躍を見せるかが楽しみだ。


分冊キンドル版: Injection #4