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VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

『BATMAN AND SON』 (DC, 2006-08)

DC

 ネタバレとは誰もが嫌うものである。インターネットが生活の隅々まで浸透した世界を生きている以上ある程度はしようがないとは謂え、取っておいたケーキに唾を付けられるような真似には度し難いものがある。
 けれど一方で、結末を知っていても楽しめるのが本当に良い作品というものだ。


邦訳版合本(ここで紹介する合本の全てが含まれているわけではないので注意)
(Amazon): バットマン・アンド・サン

 主だったヴィランが一掃されたGothamの街。戸惑うBatman a.k.a Bruce Wayneのもとへかつて国際テロリストの娘であると同時に恋仲にもあったTalia al Ghulが彼の息子だという少年Damianを連れてやってくる。一方、静かになったように思えた街のすぐ足元では新たな、そしてかつてなく大きな脅威が着々と陰謀の網を張り巡らしていた…。

 2006年に『BATMAN』誌のメインライターに就任してから闇の騎士の世界を大きく押し広げたライター、Grant Morrison。実のところ私がBatmanを本格的に読み始めたのは『FINAL CRISIS』後に創刊された『BATMAN AND ROBIN』以降だったため、それ以前の話についてはネットである程度あらすじは知っていたものの、恥ずかしながらちゃんと読んだことがなかった。思いついたが吉というわけで、今回初めてMorrisonサーガを最初から順を追って目を通すことにした次第だ。

 2014年に発刊されたこの合本に含まれているのは今やすっかりRobinとして定着したDamian Wayneのデビュー作である表題作(最初に出てきた時はこんなクソガキだったんやな…)や、カルト的犯罪組織Black Gloveの陰謀にBatmanが世界中から集められたヒーロー達と共に巻き込まれる話など、後の展開に大きく波及する話ばかり。号数で言えば#655−658、663−669、672−675となる(クロスオーバーなどの関係でこの合本含まれていないものも既に入手しているので読んだらその都度連載で言及する)。


原書合本版(Amazon): Batman: Batman and Son (New Edition)

 Warren EllisやNeil Gaimanなどと異なり、Morrisonはノンフィクションの『SUPERGODS』くらいでしか文章をお目にかかる機会がないので、個人的には文章とアートが完全に分かれている『THE CLOWN AT MIDNIGHT』は数少ない彼の物語文章が見られる場として興味深かった。

 過去に『JLA』でBatmanを扱っていた時は彼をハデスのような冥府神の現代版として描いたというMorrisonだが、本作では新しい恋人を迎えさせ、知られざる息子を迎えさせとかなり人としての面を強調させて描いている模様。一方で、今やだいぶ落ちぶれてしまった世界の仲間達と行動する時は『JLA』時代を思い出させるようなデミゴッドとしての仮面を被った彼であり、いかに人前で表情を使い分けているかがよく分かる。
 同時に表現技法的な話をすれば、モノローグのあるなしでBatmanが人として描写されたりアイコンとして描写されたりといった違いにも気付かされる。

 Andy KubertやJonathan Glapionなど、色んなアーティストの絵を見ることができる本作だが、J.H.Williams Ⅲの絵にはとりわけ驚かされた。彼が類まれな才能の持ち主であることは『SEVEN SOLDIERS OF VICTORY』などを読んで既に知っていたものの、久々にその絵柄を見た本作では塗り方を使い分けやコマの工夫などに以前より更に引き出しが増えていることが窺えた。彼の手がけた『BATWOMAN』にもそのうち手を出してみたい。


邦訳版合本(Amazon): バットマン:ブラックグローブ (ShoPro Books)

 新要素がいくつも加わり、その世界観が大幅に広がったBatmanだが、この合本でMorrisonは未だ地ならしをしていると言わざるを得ない。ここで散りばめられたものが凝縮され、これからBatmanという存在を深く掘り下げていくのだ。その最終的な到達点を知っているとはいえ、それがどういった展開を見せてくれるのか期待せずにはいられない。