読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

『TRANSMETROPOLITAN VOL.2: LUST FOR LIFE』 (DC/Vertigo, )

DC/Vertigo

 過去を懐かしんで、未来を夢見る。空いた時間に少し今を生きる。他力本願大いに結構。長い物に巻かれて何が悪い。
 別に今始まった話じゃない。良くも悪くもいいとこ取りしたがるのが人というものだ。


原書合本版(旧版)(Amazon): Transmetropolitan: Lust for Life

 引き続きライターWarren EllisとアーティストDarick Robertsonによる傑作『TRANSMETROPOLITAN』をカバー。今回は『Vol.2: LUST FOR LIFE』です。Vol.1とは逆に今巻では前半が色んなトピックを取り上げる1話完結もの、後半は過去に取り扱った事件や盗まれた元妻の頭部などに絡んでSpiderが巻き込まれる珍騒動の顛末を3話かけて描く。大統領選に関する話題はほぼ皆無。その辺りが本格的に動き出すのは次巻からでござい。

 後半の続きもの『FREEZE ME WITH YOUR KISS』は動物同士の会話が展開されたり天国の描写があったりと、後のシリーズにはあまり見られない手探りするような遊び心がふんだんに盛り込まれていて楽しい。

 本作で注目すべきはシリーズ屈指のエピソードとも評される#8『ANOTHER COLD MORNING』だろう。
 話の中心となるのは過去(おそらく我々が生きる現代)に凍結保存された脳から作中の時代に蘇った1人の女性で、このエピソードにおいてSpiderはあくまで記者としてナレーターを務めるにとどまる(こういった市井の人々を描いたエピソードは他にもたくさんある)。
 最近いよいよ現実味を帯びてきた人工冬眠技術。こう聞いて、ミニマリストな施設に陳列された流線型ポッドの中で鼻からつららを伸ばしている人間の姿を想像する者は少なくないだろう。人工冬眠含め、あるいはVRだのドローンだのIoTだのといった”革新的”な商品やサービスについて考える時、我々はもっぱら未来ではなくSFを想像する。誰も頭部を液体窒素で浸したコンテナの底が氷で張り付いてしまわぬようキャットフードの空き缶で固定していることなど想像だにしない。
 我々が一般に想像される未来のイメージとは言ってしまえばMacと『2001年宇宙の旅』、それと僅かな『1984』によって成り立っていると言える。


原書合本版(新版)(Amazon): Transmetropolitan Vol. 2: Lust For Life (Transmetropolitan - Revised)

 未来に生きてる人間が今と同じ種類の生き物だということを忘れてはならない。お金も欲しけりゃ、セックスもしたい。スマホ用のパズルゲームアプリばっか作ってるブラック企業なんてさっさとやめちまいたい。未来の人間だってそんな現代人と本質では大して変わらぬ筈だ。
 蘇生した者を待っているのはタイトな白衣に身を包んだ好青年の歓迎ではなく、欲求不満に股間を勃たせる覗き魔の荒い鼻息だ。街の景観は『攻殻機動隊』よりも遥かに汚く、『マルドゥック・スクランブル』より遥かにけばけばしくなっていよう。
 何故なら、そういったところからしか文化は生まれないからだ。

 未来に希望を託すなとは言わない。ただその希望を希望的観測にばかり基づいてはならない。さもなくば本作の時代に蘇った者達の如く、目を見開くような驚きと落胆が待っているだけである。
 と、糞がつくほど真面目に語ってみたものの、本作の良いところはそういうテーマについて軽妙かつ痛烈な文章で綴ることで、読者を全く飽きさせることなく読ませられることだ。肩の力を抜いて読むことができる作品ほど、後に残る。
 まずは物語をエンターテイメントして楽しんで、考えるのはそれからでも良い。
 とにかく読者が考えたのなら、EllisとRobertsonの目論見は成功したと言える。

visualbullets.hatenablog.jp


本巻を含む鈍器版合本(Amazon): Absolute Transmetropolitan Vol. 1