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『BATMAN: THE RESURRECTION OF RA’S AL GHUL』 (DC, 2007-08)

 不老不死。
 古くは秦の始皇帝の時代より数多くの者が望み、同時に幾多の思想家や著述家がその愚かさを問いてきたものである。
 永遠の命は恵みか、それとも呪いか。


原書合本版(Amazon): Batman: The Resurrection of Ra's Al Ghul (Batman (DC Comics))

 かつて”Demon's Head”の異名で知られ、闇の騎士と何度も知恵と剣を交えた不死身の男、Ra's Al Ghul — 身内の裏切りによって遂に死亡したと思われていた彼だが、かつて率いていた国際テロリスト集団League of Assasinsは彼の孫であり宿敵の息子であるDamianを巡って不審な動きを見せ始めていた……。

 『BATMAN』のMorrisonサーガを読み進める中で『BATMAN AND SON』の合本から抜け落ちていた部分を補完する本作は、Morrisonや『MAD LOVE』などで有名なPaul Diniを中心とした5人のライターにより当時連載中だったGotham系コミックで展開されたストーリー。後の『BATMAN INC.』などではかなり重要になっていく要素がポロポロと見受けられるため、読み欠かしてはならないかと。本作時点においてRobinであるTim Drakeは『FINAL CRISIS』後にDamianがその座を継いだことからRed Robinとして再スタートを切るものの、そちらの話にもRa’sはだいぶ絡んでくるので2人の関係性を知るのにも必読。
 取り敢えずモノローグによる心理描写が多かったMorrisonの『BATMAN』誌より冒険活劇的な表情が強いため、初読時には頭空っぽにしてハリウッド映画でも観るような感覚で一気に読んでしまうのがいいんじゃないかな。

 掲載誌があちこちへ跨っているためアートが劇画調のTony S. Danielになったり比較的デフォルメの強いFreddie E. Williams Ⅱになったりとかなり幅があることは否めないものの、各誌でスポットライトを浴びるキャラクターが変わるため、それほど違和感はない(全くとは言わないけれど)。加えて、それぞれの側面から本筋は一貫して進み続けているため、どれもスピンオフあるいはタイ・インと言うような外れた感じはなく、むしろ1つの群像劇として本作を読むことができる。
 ストーリーのまとまり含め、秀逸なチーム・プレイの結実した作品かと。


邦訳版(Amazon): バットマン:ラーズ・アル・グールの復活

 本作は様々な形で人と人との繋がり、とりわけ”家族の繋がり”というものを描く。
 Ra’sと娘のTalia、それに孫のDamian。Tim Drake a.k.a RobinとDick Grayson a.k.a Nightwing。それにRa’sとある人物(本筋と関わるためここでは敢えて言及しない)との繋がり等々。時としてただの道具として見ていなかったり、時として知らぬ間に失いかけていた信頼関係を取り戻したり。
 とりわけこの話のあった時期にはまだ父親や友人を立ち直りきれていないどころか、Bruceの息子という立場さえDamianに奪われるのではないかと危ぶんでとある博打に出ようとするTimと、そんな彼を説得しようとするDickのやりとりは読んでいて心打たれるものがあった。

 不老不死は祝福か、それとも罰か。
 それを論じることに意味はない。不老不死だけに焦点を定めた議論は無価値だ。なぜなら命とは時間の尺度のみでその尊さを計り切れるものではないから。
 だが、少なくともこれだけは言える。
 失ったもの、これから失うものを埋めるための命は呪いだと。