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VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

『TRANSMETROPOLITAN VOL.3: YEAR OF THE BASTARD』 (DC/Vertigo, 1998-99)

 「この国とそれが象徴するものは好き。それを動かしてる奴らが嫌いなだけ。」
 以前、TVドラマで同僚に「国が嫌いなのか」と問われた主人公がこう答えたのを観て感心したのを覚えている。的を射た発言だと思う。
 政治家というのは国民の代表だ。謂わばスポークスマンであり、彼らは国に”仕える”存在である筈だ。
 いつから彼らは私達を”率いる”存在に昇格したのだろう?


原書合本版(Amazon): Transmetropolitan, Vol. 3: Year of the Bastard

 Ellis&Robertsonによるサイバーパンク・ジャーナリズムの傑作『TRANSMETROPOLITAN』も3冊目。本巻『YEAR OF THE BASTARD』ではいよいよ反骨のジャーナリストSpider Jerusalemが本格的に大統領選に関わっていくことでシリーズ全体の方向が定まると共に役者も揃う。彼がシリーズ開始時山に引き篭もっていた理由なんかも明確になり(いやこれは以前から言及されたか)、シリーズ最初の山場、ドラマで言えばシーズン1のフィナーレといったところ。今回ばかりは街の風景を切り取る1話完結のエピソードもない。

 平気で過激な発言をするわ、色んな立場の色んな人にケチをつけるわで一見するとかなり偏った考えを持っているように見えるSpiderだが、一歩退いて見ると実は極めて中立的であることに気付かされる。彼はこれまでの時点で宗教に文化保護に広告業界にと様々な社会の側面を取り扱ってきたものの、それらに対して自らの考えを述べつつも明確な立場を取ることを避けてきた。彼はあくまで事実と、自らが体験として得た思いのみをコラムに綴っている。

 本巻で彼は特定の社会問題に関して言及し、政治にそれをどうにかしろ(ひいては国民に対し、それをどうにかしてくれる候補へ投票しろ)とシリーズを通して唯一かもしれない要求を訴えるが、それは結果的に片方の候補の味方をすることになりつつも、大半の者が同意できる課題だ。

 Spiderが何かに口を出す時は常に1つの観点に基づいている。
 真実だ。
 彼は常に真実を軸にして動いており、取材する相手からは常に誠実さを求める。故にそれまで好意的に接してきた相手に対しても人々へ嘘を吐くようならば、彼はすぐに意を翻して相手を激しく罵倒する。
 勿論、真実はいつも中立的とは限らない。不倫をしていたということが明るみに出たことでそれまで人気を博していた芸能人があっという間に転落してしまうように、真実は時として大きく世論の天秤を傾ける。

 Spiderもこのことをしかと承知しつつ、だが真実を知った結果として人々が堕落する方向へ赴くのであれば、彼は激怒こそすれそれを良しとするフシがある。その上で、自分が行っていることはあくまで人の目をひん剥いてどうにかしろとその耳に叫ぶだけであり、自身は社会を一切変えていないと度々口にしている。

 汚職などでメディアから激しいバッシングを受けて立場から退いた政治家が、実際に会ってみるととても良い人物だった、という話はあちこちで聞く。当然だ。一般国民と同じ視点を持つことと、政治家としてあるべき態度とでは話が違う。
 ここで政治家の品格云々について語るつもりはない。何度も言うが、ここはコミックを読むための場所だ。政治のオピニオン劇場じゃない。
 ただ、その人物が国民の代表を名乗るのであれば、最低限国民に誠実であるべきであることは間違いないだろう。本作でSpiderはその最低条件を確認しているに過ぎないのだ。