VISUAL BULLETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

SWEET TOOTH VOL.2: IN CAPTIVITY (DC/Vertigo, 2010)

 作品において謎の存在は重要だ。
 しかし、弾丸が発射する銃の存在なくしては用をなさないのと同様に、謎も効果的な演出によって初めて読者を惹き付ける魅力となりうる。


原書合本版(旧版)(Amazon): In Captivity (Sweet Tooth 2)

 Vol.1の終盤でJepperdの裏切りに遭い、政府の研究施設に囚われの身となってしまったGus。そこで彼が出逢ったのは、自分と同じ半獣半人のハイブリッド達であった。そして彼を身体検査した科学者のSinghが驚愕の事実を見出す頃、施設の管理人Abbotからボストンバッグを受け取ったJepperdは過去を回想しながら、ある場所へ向かう。

 前回早々に目的地だった保護区に到着して直後、当然のように研究対象として収容されてしまった我らが主人公Gus君。今回は内容こそGusとJepperdの過去がクローズアップされた分だけ現在が地団駄を踏んでいたものの、色々な出会いがあったり新事実が発覚したりと、淡々とした雰囲気に呑まれていたら知らないうちに作品全体の謎に急接近していたというか。今後の展開に向けて色々な布石が敷かれた感じ。

 Vol.1の記事で言及した隔絶感に関して、Jepperdの放浪で前巻と似た形で醸し出される一方、研究施設に囚われたGusの方ではまた異なる形で描かれたことは興味深かった。後者に関しては個人的に『28 days later』なんかを思い出したね。あれも切迫した雰囲気が続くにも関わらず、どこか登場人物達を箱庭の外から俯瞰しているような客観性というか距離を感じたんで。
 敢えて疫病の拡散でどこまかしこもパニック状態になっている時を直接的に描かないことも不気味な空気を際立たせるのに功を奏しているかと。


原書合本版(本巻を含む#1−12までの新装版合本)(Amazon): Sweet Tooth The Deluxe Edition Book One

 描く描かないの話であれば、もう1つ本巻でJeff Lemireが施した工夫について記したいことがある。それはJepperdの過去を現在と交錯させる手法、もっと具体的に言えば彼の妻に関する情報の出し方だ。
 前巻の終盤でAbbotからボストンバッグを受け取ったJepperdは妻のLouiseを思い出しながら、故郷へ歩を進める。このボストンバッグの中身は物語時点で明かされていないのだが、この謎をしばらく引きずったまま話が進むのかと思いきや、思いの外あっさりと第1章の終盤で明かされる(ネタバレ防止のため遠回しな言い方が多々あるもののご容赦願いたい)。

 この謎に対する2つのアプローチを考えてみよう。
 まず1つ目がかなりスタンダードな、一般的に用いられそうな手法 — 携えるボストンバッグの中身が語られないまま、Jepperdは妻に関する回想を続け、その顛末が明らかになった時点でようやくバッグの中身も明かすというやり方。
 だが、本作でこの手法は取られなかった。代わりに使用されたのはもう1つの手法、彼に妻がいたことを示してすぐにボストンバッグの中身を明かし、残りの回想でその間に何があったかを埋めていく非線形的な手法である。

 前者はボストンバッグの中身のみが謎となるのに対し、後者は過去回想全体が謎となる。前者は一度予想がついてしまうとそれで終わりだが、後者は起こったことの一部が予想通りでも全体は靄に包まれたままだ。加えて言うならば、後者の方が現在と過去の交錯を上手に使っているようにも思える(分かりやすい例を出すなら、『エヴァQ』を観ると『破』との間に何が起こったのか、すごく気になるでしょ?って話)。
 本巻はLemireの手腕に唸らされた1冊と言えよう。今後の展開の謎も楽しみだ。

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