VISUAL BULLETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

TRANSMETROPOLITAN VOL.4: THE NEW SCUM (DC/VERTIGO, 1999-2000)

 大切なのは国の将来じゃなく今晩のニコ生。
 欲しいのは別に”絆”なんてごたいそうなものじゃなく、投稿をファボッてくれる”一秒の愛”。
 どこかの大統領が何してるとかどうでも良い。それよりさっさとムカつくあの国と国交断絶しろよ。
 これが今の私達だ。
 何が悪い?


原書合本版: Transmetropolitan, Vol. 4: The New Scum

 引き続き『TRANSMETROPOLITAN』、今巻は『Vol.4 THE NEW SCUM』です。
 まずアートに関して、カラーのRodney Ramosが初期の不慣れな感じがすっかり拭えて絵が見やすくなったと同時に、さりげなくコミカルな描写を盛り込むDarick Robertsonの絵も盾についてきた。ストーリーの方向性が決まったことでキャラクターの性格や人間関係が固まったことから、その造詣などにも安定感が出てきたというところだろう。
 また、道を通る人々の表情が非常に生き生きしており、また混み合った街の風景も『ウォーリーを探せ』の絵でも眺めているような趣がある。本作はこういった人がごった煮状態になっているシーンが一番魅力的。

 ストーリーに関しては衝撃的な死により幕を引いた前巻だったが、今巻ではいよいよ大統領選が大詰めを迎える。Spiderが市井の”The new scum”=”新しいクズ”の中に混じりながら取材を進める一方で、現職のThe Beastと対立候補のThe Smilerがそれぞれの思惑で彼との接触を図る今回の話は、状況的な盛り上がりに反し、まるで死者を悼むかのような、どこか静けさが漂うものとなっている。前巻をシーズン・フィナーレと評したが、今巻は新シーズンの幕開けと言えよう。

 面白さは相変わらずな一方、話の展開で言えば大きく進んだ様子はなく、今後に向けての溜めといった印象を受ける。一応大統領選を中心とした連作という構成だが、これまでの巻で幕間に挟まってきたSpiderの一話完結コラムを思わせる街の風景描写がちょいちょい差し込まれる(以前のコラムで取り上げられたキャラクターも出てきたのが個人的には嬉しかった)ため、両者の合せ技といった感じだ。ラストにはクリスマスに関連したオマケの話がついており、こちらも面白い。

 おそらく今巻が最も登場人物たちの内面に肉薄しているのではないだろうか。少なくとも、大統領選の両候補はここにきてこれまでほっかむりしてきた皮をきれいにひん剥いてその生々しい本体を露呈している。無論、グロテスクだ。少なくとも有権者の集まる前で晒せるようなものじゃない。過激で下品な物言いのSpiderにも陰りが見えるくらいだ。
 だが、だからこそ両者の政治的なスタンスはくっきりと浮かび上がる。片方は極端だが何かを信じている。もう片方は極端なほど何も信じていない。対立軸ははっきりしている。判断材料は揃った。選択肢は目の前にある。

 しかしそれでも人々はゴシップを選ぶ。彼らはテーブルの上に並べられた皿へきれいに盛られた料理へは目もくれず、床に落ちた食べかけのハンバーガーをむさぼる。自分の頭で考えるようなことはしない。帰巣本能に従う魚のようにトレンドへ目を向け、センセーションの向かう方へ。
”皆そう言ってるから”というだけの理由で。

 選挙の結果が出た時、今巻において比較的大人しかったSpiderは久々に怒りを文字通り爆発させる。散々お膳立てをしてきたのにロクな答えを出すことができない人々へ猛り狂う。
 今を生きる我々にもこの怒りは必要だ。
「何が悪い?」と詰め寄ってくる生意気な面をひっぱたけるくらいの怒りは。