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VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

JSA: THE GOLDEN AGE (DC, 1993-94)

 Alan MooreとDave Gibbonsによる『WATCHMEN』が冷戦時代の米国(とシルバーエイジのスーパーヒーロー)を描いたものなら、本作は終戦直後における赤狩り時代の米国を描いたものといえるだろう。SFとしての傾向が強い『WATCHMEN』に対してこちらはどちらかといえば人間ドラマのため同じ土俵で比べるのもおかしいが、少なくともストーリーやアートの質だけで言うなら、本作は『WATCHMEN』に匹敵する完成度を誇るだろう。


原書合本版(Amazon): JSA: The Golden Age: Deluxe Edition

 Mystery Men — かつて色鮮やかな衣装に身を包み摩天楼を跋扈した彼らは、第2次世界大戦が苛烈の一途を辿る中で徐々に姿を消していった。
 そしてようやく終戦を迎えた1946年、大陸から戦果を挙げた多くの若者達と共に1人のMystery Menが米国に帰還する。彼の名は Tex Thompson a.k.a Mr. America — 大統領の要望で敵地に工作員として勝利に大きく貢献した彼は瞬く間に人々からヒーローとして崇められるように。
 だが同じ頃、もう1人のMystery Manがひっそりと帰ってきたことに気付くものはほとんどいなかった。彼の名はPaul Kirk a.k.a Manhunter — 記憶を失い意識が混濁した状態で帰還した彼は理由もわからないまま何者かに命を狙われる。
 スーパーヒーローの黄金時代、その幕が間もなく降りようとしていた……。

 ライターのJames Robinsonは現在も第1線で活躍するライター。カルト的な人気を誇る『STARMAN』を始め、DCとMarvelの両方で数多くの作品を手がけている彼は『STARMAN』で色んな時代のStarmanを描いたり、Marvelの『INVADERS』で第2次世界大戦時代に活躍したCaptain AmericaやNamorといったヒーロー達の新たな活躍を描いたりしていることからもわかる通り、ゴールデンエイジやシルバーエイジなど各時代のヒーローを丁寧に描き出すことを得意とする人物だ。

 また、時代の異なる作品を手がける上でアートがその雰囲気を決める非常に重要な要素であることは言うまでもないが、Paul SmithやRichard Oryのアートは『終戦/赤狩り』というアンビバレントな本作の時代の明暗を的確に捉えている。クリエイターのプロフィールを見るとSmithは米国カートゥーン界でその名を知らぬ者はいないRichard Bakshiに師事していたりHanna Barberaで仕事をした経験があるようで、確かに古き良き米国カートゥーンを思わせる絵柄だ。Oryの極彩色を多用しつつどこか抑えたような趣のカラーもパルプ・フィクションの表紙を見ているようで唆られる。

 タイトルに”黄金時代”と冠しているものの、本作は決して華々しさに満ちたものではない。Manhunterは命を狙われ、Green Lanternは赤狩りの標的にされ、Starmanは原爆開発に協力した罪に苛まれ心を病んでしまっている。周囲の世間はともかくとして、少なくともマスクとタイツをクローゼットの奥に仕舞い込んだ元Mystery Menに戦勝国の明るさを見出すことはできない。
 それでも、だ。
 どうしてだろう — 作品全体を通してみると俗にGrim&Grittyと呼ばれる作品群とは一線を画している。どんなに暗雲が立ち込めても常に希望の光が見出だせる。

 過ぎ去った時代について語る時、多くの者が良きにせよ悪きにせよ「昔は単純だった」と言う。 
 確かに事あるごとに無数の選択肢が目の前に提示される現代の我々と比べて、75年前に生きていた者達は限られた数の価値観からしか物事を選び取ることができなかったかもしれない。
 しかし、だからといって昔が”単純”だったと果たして言えるだろうか。
 本作を読めばわかる通り、成程75年前の彼らは選択肢こそ限られていたかもしれないが、ともすれば「ああでもないこうでもない」と思考が散漫になってしまう現代人と違い、彼らはその分それぞれのチョイスに深く思いを巡らせていることがわかる。
 勘違いして欲しくないが、別に私は選択肢の数が多いから少ないからどちらが良いと言いたいわけじゃない。
 大切なのはそれらの選択肢に対して熟慮を重ね、試行錯誤しながら自分を築き上げていこうとする姿勢だ。本作でも元ヴィジランテ達は様々な課題に直面しながらも常に自分と周囲にとって最善の選択をしようと努力している。
 この姿勢こそがかつての”黄金時代”を築き上げたのではないだろうか。
 もしそうなら、新たな”黄金時代”を築くことは不可能じゃない。