VISUAL BULLETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

INFINITE CRISIS (DC, 2005-06)

 暗い時代かもしれない。けれど過去を懐かしんでばかりもいられない。
 前に進まなくては。


原書愛蔵版(Amazon): Absolute Infinite Crisis

 世界に暗雲が立ち込めていた — 死、裏切り、そして行き過ぎた行為の数々によりスーパーヒーロー達は人々からの信頼を失いつつあった。Superman、Batman、Wonder Womanの3人も例外ではなく、顔を合わせれば互いを非難する彼らは最早かつての仲睦まじい関係からは程遠い場所にいた。そんな彼らをさらに追い詰めるようかの如く超人監視活動構成体 O.M.A.C が空を埋め尽くし、世界中のスーパーヴィランが一斉に市街を襲撃する。
 このまま世界は闇に呑まれてしまうのか — 誰もがそう思いかけた時、時空の壁を打ち破って姿を現したのは異次元Earth-Twoの守護者Supermanだった!

前提: Superman誕生からWW2終結までのスーパーヒーロー黎明期、俗に言う”ゴールデンエイジ”は戦争が終わると急激に衰退し、かつて人気を誇っていたFlashやGreen Lanternの活躍を描いていた多くのコミック誌が休刊に追い込まれる。読者を再びスーパーヒーローへ誘い戻すべくDCが同じ名前ながら別のFlashやGreen Lanternを新たに世へ送り出すとこれが人気を博し”シルバーエイジ”が始まる。
 当初はこれでうまくいったものの、Justice Leagueなどチーム物で時代を跨った色々なヒーローがクロス・オーバーするようになると徐々に混乱が生じるように。とりわけ”ゴールデンエイジ”から”シルバーエイジ”にかけての休刊ラッシュを免れたSupermanやBatmanで矛盾が顕著になってくる。これを解消するべくDCはゴールデンエイジの世界を”Earth-two”、シルバーエイジの世界を”Earth-one”と名付け、Supermanなどのヒーローも各時代で異なる世界の異なるヒーローを描いていたという”Multiverse”の設定を後付けする。
 これまた最初は功を奏したように見えたものの、その使い勝手の良さから調子に乗って世界をEarth 3だのEarth Xだのと量産し過ぎたことから、時を経るにつれ以前より収拾が付かなくなる。

①『CRISIS ON INFINITE EARTHS』: Anti-Monitorの陰謀に端を発したこの事件によりDCから”Multiverse”は一掃され、ほとんどの世界は現行DCユニバースであるEarth-Oneに矛盾しない形で融合、ただの”Earth”として新生する。Psycho Pirateなど一部の人間を除いてこのことを覚えている者はいない。Earth-twoのSupermanやLois Lane、Earth-ThreeのAlexander Luthor、そしてEarth-PrimeのSuperboyは時空の間にある安全地帯から世界を見守るように。

②『COUNTDOWN TO INFINITE CRISIS』: 超人排外主義者のMaxwell Lordが陰謀を企てていることに気付いたTed Kord a.k.a Blue Beetleは仲間となることをもちかけられるもこれを拒否、結果殺害される。

③『THE OMAC PROJECT』: 『IDENTITY CRISIS』事件の後、ヒーローに対する信頼を失ったBatmanはヒーロー・ヴィランに関わらず超人達を監視するためのシステムO.M.A.C(Observational Metahuman Activity Construct)を開発するも、これをMaxwell Lordに乗っ取られる。さらに他者を自らの意志で操る能力を有すLordに操られたSupermanの手でBatmanが殺害されようとした時、致し方なしと判断したWonder Womanの手によりLordは殺害され、その瞬間を撮影した映像がリークしたことで世界はWonder Woman、ひいてはAmazonsを危険視するように。そしてLordが殺害されたことで彼に掌握されたO.M.A.Cにもパラノイアのスイッチが入り暴走。世界中で超人を虐殺し始める。


③の原書合本版(Amazon): The Omac Project (Countdown to Infinite Crisis)

④『DAY OF VENGEANCE』: 何らかの理由によりSpectreが発狂、オカルト系ヒーローがそれを食い止めようとする中、Captain Marvelに魔法の力を与えた老魔術師SHAZAMが戦いを挑み死亡。その住処であったRock Of Eternityが崩壊すると共にあらゆる魔法が暴走し始める。

⑤『RANN–THANAGAR WAR』: 惑星Rann(Adam Strangeが守護)がその支配を目論んだThanagar(Hawkman達の故郷)の過激派により転移、それに影響を受けたThanagarは重力などがおしゃかになり消滅。両者の間で戦端が開かれる。

⑥その他:
・Conner Kent a.k.a Superboyは自分の遺伝子がLex Luthorから提供されたものだと知り、そのショックで引きこもり中。
・Nightwingが守護するBlüdhavenはGothamに勝るとも劣らない犯罪の温床。

等々。


(通常の)原書合本版(Amazon): Infinite Crisis (Superman)

 で、感想ですが。

 Dick、お前良く生き残れたなというのがまず第1印象。
 読む前から「Dan Didioが本作でNightwingを死亡させようとしていたのをGeoff Johnsが必死に反対してやり過ごした」という話は耳にしていたものの、まさかこれほどその死を臭わせまくってくるとは。本作でのDickはSuperman以上にモラルの軸となっており、またBatman以上にあちこちで大活躍する影の主役です。そしてクロス・オーバーで影の主役というのは往々にして話の終盤で命を落としてしまいます。
 #4でBatmanに「お前にとってあの頃は良かったんだよな?」と問われて「最高だった」と答える彼のスマイルに読んでいるこっちは死を予感せずにはいられませんでした(はあ、本当に『NIGHTWING』誌集め始めようかな……)。

 アートに関して、1つのシリーズに複数のアーティストが携わることは一般にあまりよろしくないこととされているものの、こと本作に関しては同時並行して起こっているそれぞれの事件に合った雰囲気を与えるべく、意図して行われているものであるためむしろ功を奏していると言える。
 とりわけ復活したEarth-Twoの描写やFlashの一斉攻撃など『CRISIS ON INFINITE EARTHS』を思わせるアートにGeorge Perezを持ってきたのは名采配かと。Earth-TwoのLoisが死亡した怒りで車を持ち上げるシーンは当然『ACTION COMICS』創刊号へのオマージュですね。相変わらず芸が細かい。
 メインのPhil Jimenezも『INVISIBLES』なんかでアクションもドラマも描ける人だというのは知っていたものの、その頃より絵柄がだいぶスッキリしたよう。
 コマ数もよく見たら一般的なコミックより多いものの全く気になりませんでした。

 本作はスーパーヒーロー、もっと厳密に言えば(我々が見慣れている方の)Supermanの罪と罰を描いた作品と言える。
 OMACを開発したBatman、悪人とはいえ人を殺害してしまったWonder Womanに対し、Supermanは一見何ら罪を犯していない。しかし、以前『JUSTICE』の記事でも述べた通り、社会におけるスーパーヒーローの役目とは人々をインスパイアすることだ。そして数多のヒーローの中でも最大のインスピレーションである筈のSupermanは長らくその役目を果たし切れていなかった。
 社会においては価値観が多様化すればするほど”正義”という概念が相対的になる。1人の正義は別の1人の悪となり、人々は自らの信じる”正義”を守るために異質な存在を排除しようとしたり暴力に訴えようとする。これは当然起こりうることで致し方ないことでもある。
 ここにおいて、ルーティンワークのような救済は最早不十分と言わざるを得ない。

 Supermanの罪とは人々に高みを見上げるようインスパイアできなかったことであり、それは同時に見上げることを忘れた我々全員の罪でもある。
 そしてその果てに辿り着いたのがこの混沌だ。
 この期に及んで過激な行為を非難したところで意味はないし、ましてだんまりを決め込むのは愚の骨頂だろう。
 今必要なのは何か — それは行動すること= ACTION に他ならない。不安や恐怖から暴力という短絡的な解決法に頼ってしまう弱者に対し、強き者達はそれを圧倒するくらいの”希望”を示さなくてはならないのだ。

 3人のヒーローが再び希望の種を蒔く場面で締めを飾る本作。最後の見開きで読者に向かって走ってくるように描かれたスーパーヒーロー達の姿は明るい未来の予感に満ちている。

 ページの外にいる私達はどうだろう。
 この世界で明るい未来へ走るのは誰だろう。

 今読むべき作品であることは間違いない。