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VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

SWEET TOOTH VOL.3: ANIMAL ARMIES (DC/Vertigo, 2010-11) 

 いよいよ”裸にベスト、腕にはチェーン”のバイカー集団なんかも出てきてマッドでマックスなバンビとなってきた本シリーズ。今巻は謂わば前半戦のラスト。折り返し地点。


ドイツ語版合本(カバーは下の原書合本版と同じなので参考までに)(Amazon): Sweet Tooth 03: Die Flucht

 人類を破滅へと導いた謎の疫病 — Gusがその鍵を握る存在かもしれないと目した政府研究施設の指揮官Abbotは、医師Singhと共に彼が以前住んでいたという林の中の山小屋を目指す。
 数多くの人間に裏切られて心を閉ざすGusだったが、檻の中で出逢った他のハイブリッド達と絆を深める。そんな中、Abbotの弟で雑用役のJohnnyはGus達ハイブリッドを密かに施設から脱走させようとするが……。
 一方その頃、傷心から立ち直ったJepperdは娼館で出逢ったLucy、Beckyらと共にAbbotへ復讐し、Gusを救出すべく動き出していた。

 父親に死なれ、甘い言葉で誘い出されてついて行った先でオッサンに裏切られ、怖い大人達から酷い扱いを受けた後、怪しい科学者に良いように利用され、優しくしてくれるお兄ちゃんと仲良くしてたら他の職員にぶん殴られ……散々いいように振り回されて我らが主人公Gus君の精神状態はすっかりどっかのエヴァパイロット状態です。

 一方、愛すべきオッサンJepperdはと言えば前巻で落ちるところまで落ちたので今回はもう上がるしかないというかタフガイとして復活。ライフルを肩に背負い、馬に跨って「目にもの見せてやるぜ」と言わんばかり。カッコイイ。非情にカッコイイ。終盤で明かされる息子の存在もシリーズ後半戦で効力を発揮してくるものかと思われます。

 それとキャラクターで言えば本巻ではAbbotが悪役として完成してきたな、という印象。前巻までは良くも悪くもStephen Kingなんかの小説に出てくるような「ムカつく外道」を薄味にしたような奴だったけれど、今回は唯一の弱みと思われる弟のJohnnyが出てきたり、傷ついたハイブリッドをいたわるような描写があったりと深みが増した。こいつはこいつで今後掘り下げられていきそうな予感がします。Lemireは『ESSEX COUNTRY』で愛憎入り混じった兄弟を描いた話が秀逸だったので本作にも期待できるかと。
 あ、豚鼻のハイブリッド少女Wendyもなんだか可愛く見えてきました。


原書合本版(Amazon): Sweet Tooth Vol. 3: Animal Armies

 
 ストーリー的にはキャラクターが物語を引っ張るというのはこういうことを言うのか、とちょっと感心。
 Lemireの作るキャラクターは抜群に説得力がある。各キャラクターの行動動機の背景となる過去や物の見方をしっかりとストーリー内で提示しており、”欲”という簡便なツールに(少なくともそのままの状態では)頼っていない。時にその説明が冗長になることがあることは否めないものの、一度その原因と結果が結びつくとキャラクターの人間としての深みが一気に増す。
 22ページのリーフが1単位のコミックでは必ずしも上手くはいかない、ある意味文学的なキャラクターの構築法だけれど、少なくとも本作では功を奏しているかと思われる(さっきStephen Kingに関して言及したけれど、そういやKingもそんな感じのストーリーテリングしてる)。 

 ディストピア物の大きな魅力には1)極限状態における人々の心理描写と、2)そこで辛うじて保たれていた社会が一気に崩壊する時のカタルシスとがある。
 本巻で『SWEET TOOTH』は1つの大きなカタルシスの波を迎えたと言えよう。


本書の内容を一部含む新装版合本(Amazon): Sweet Tooth Deluxe Edition Book Two