VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

TRANSMETROPOLITAN VOL.7: SPIDER’S THRASH (DC/Vertigo, 2000-01)

 ファイナルシーズン開始と同時にシリーズ屈指の巻ではないかと個人的には思っとります。


原書合本版(Amazon): Transmetropolitan Vol. 7: Spider's Thrash (New Edition)

 大統領の奸計により新聞のコラムニストをクビにされ、ジャーナリストとしての生命線も断たれた叛逆の報道天使Spider Jerusalem — 2人のアシスタントと共に追われる身となった彼はしかし、むしろこれ幸いと言わんばかりにアンダーグラウンドメディアサイトと接触を図り、いよいよ大統領Gary Callahanを玉座から引きずり下ろすべく全面戦争を仕掛ける。だが同じ頃、彼の体にはある異変が……。

 今でこそ一番の巻だと思っているものの、実は最初に読んだ時はちょっと退屈に感じた巻でもあったり。 
 SpiderとChannon、それにYelenaの3人がアパートから夜逃げ装備で遁走するクリフハンガーで締めくくられた前巻 — だが本巻は開始時点だと必ずしもその時の盛り上がりを引き継いでいるとは言えない。SpiderはThe Holeの面々にコンタクトを取って再浮上を図り、大統領が方々へ刺客を差し向けて汚職の証拠隠滅に奔走してと、お互い相手へ牽制攻撃こそ仕掛けるものの直接顔を合わせることはなく小競り合いの域を出ない。少なくとも、Spiderが大衆の前で欺瞞を喝破する時のようなカタルシスを本巻で見ることはない。むしろ今後の(そして最後の)糾弾に向けた下準備という感が強い。
 加えて本筋に絡んでこない描写も多かったり、章と章の間に件のコラム形式1話完結が挿まったりと(多分これがシリーズ最後)かなり脱線が多いのも特徴的だ。

 だが2回3回と読み直すにつれ、本巻こそこのシリーズが最も自由に跋扈している巻であるということが徐々に飲み込めてきた。
 本巻は大統領から追われる身となったもののまだ全面戦争には突入していないという微妙な時期に位置しており、クライマックスに向けてまっしぐらに走らなければならなくなる前にこれまでシリーズで構築してきた世界観を徹底的に遊び倒せる最後のチャンスと言える。
 これまではアートや物語がまだぎこちなかったり、読者が本作独特のストーリーテリングに慣れ親しんでいなかった段階では不自然だったであろうシーンやネタが数多く描写されている。児童の売春をテーマにした1話完結の『BUSINESS』も、Spiderがダウンタウンへ本拠を移した今だから扱うことができる際どいテーマといえるだろう。Robertsonのコミカルとシリアスが共存するアートも至るところで遊んでおり、いよいよあの病みつきになる憎たらしい笑みも見られるようになってきた。
 
 とりわけ本巻に収録されている#41と#42はSpider Jerusalemのジャーナリズム、その本質を最もまざまざと描き出している。一見とりとめのない妄想癖達へのインタビューや、変わりゆく街の描写などがある時点でぱっと本筋にまとまり、Callahanを大統領の座から引きずり下ろすための取材であることがわかった時の驚きには、彼が政治家をギャフンと言わせるようなときとはまた異なる快感がある。

 本巻はSpiderらが街の暗部に潜ったところでEllisとRobertsonがこの舞台の恥に肉薄したパートであり、シリーズ中でゴンゾジャーナリズムの極地を描いた部分であるといえる。