VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

NAILBITER VOL.1: THERE WILL BE BLOOD. (Image, 2015)

 実はこの作品、存在自体は知っていたものの当初はタイトルとカバーアートだけ見ては「ああ、爪を血が出るまで噛むのとか痛々しいなあ」と思って敬遠してました。
 ところが最近になってどこぞのレビューでそのあらすじ知りましてん。
 小さな町+殺人+陰謀+問題のある主人公……。「やだこれあたしの大好物じゃない……!」ということで購入→即読了。


分冊キンドル版(Amazon): Nailbiter #4

 オレゴン州にある小さな町 Buckaroo — 被害者の爪をしゃぶる連続殺人鬼 Edward “Nailbiter” Warren の出身地として俄に有名となったこの場所は、だが実は16人もの連続殺人鬼を過去に輩出していた。親友のFBI捜査官に呼び出されてそんな Bukaroo へやってきた元NSA尋問官 Nicholas Finchだったが、そこに相手の姿はなかった。代わりに彼が出会うのは保釈されたWarrenに、彼や他の殺人鬼達に固執する町の人々 — そして、友の行方を探すFinchを嘲笑うかのように新たな事件が幕を開ける。

いやあ食わず嫌いってホント駄目ですね。横溝正史みたいなミステリーとか好きな方には堪らないかと(『TWIN PEAKS』まだ観てない……)。

 ライターのJoshua Williamsonは現在DCで『FLASH』誌を担当している方。少し前に完結したイベント『JUSTICDE LEAGUE VS. SUICIDE SQUAD』も含めて高い評価を得ているのでその実力は推して知るべし。私自身は本作で初めて彼の作品に目を通したものの、ちょっと『FLASH』なんかも気になってきました。

 当初気になっていた爪を噛む描写についても、アーティストのMike Hendersonの絵柄は適度にデフォルメが利いているため特に気になりませんでした。他にも口を縫ったり腕を切断したりするグロ描写があるもののさして目を覆いたくなるような感じはなく。少なくともよくあるサスペンスホラーみたいに「うっ…」となるミートポルノ・シーンではなかったかと思われるのでご安心を。『WALKING DEAD』とか『金田一少年の事件簿』とか読めれば十分いけるレベルです。
 余談だけれど、主人公Finchの親友でFBI捜査官のCarrolがRobert Kirkmanとそっくりなのが軽くツボでした。
 
 本巻の時点でWarren含めて既に4,5人の連続殺人鬼が登場。言及された奴らも含めると10人近くに上る。フィクションとは謂え殺人鬼に対してこんな感想は不謹慎かもしれないが、どれも興味を唆られる者ばかりだ。
 Hannibal Lector、Joker、Jack the Ripper……人々はどうしてこうした殺人鬼に惹かれるのだろう?
 私は心理学者じゃないので「タブーを破る彼らが云々」などとここで慣れない高説を曰うつもりはない。だが、一介のアメコミ読みとして1つ気付いたことがある。
 それは人々が殺人鬼に見出す魅力というのがスーパーヒーローに見出すそれとかなり近いところにあるということだ。

 殺人鬼にカリスマ性を見出す被害者がいないことからもわかる通り、往々にしてこういった悪漢に憧れる輩というのは彼らを遠巻きに見ている者だ。そしてこうした者達が見ている犯人像というのは新聞やテレビ、あるいはネットなどといったメディアが読者に理解しやすく伝えるべくパターン化し、デフォルメ化した人間像、つまりキャラクターとしての人間像である(本作に登場した殺人鬼グッズショップなんてのも彼らのキャラクター化あってのものといえるだろう)。
 別にメディアを責めているわけじゃない。人が他者に何かを伝達するという行為にはもっぱらそういった”加工”は不可欠だ。
 そしてこの”加工”により殺人鬼達の殺傷行為は超人的パフォーマンスと化し、一筋縄でいかない彼らの精神はミステリアスな雰囲気を帯びる。
 特殊な行為と、神秘的な精神 — これは人々がスーパーヒーローに見出す魅力と同じものだ。
 
 ヒーローとサイコキラー、両者は本当にコインの表裏なのかもしれないと痛感させられた本でした。


原書合本版(Amazon): Nailbiter 1: There Will Be Blood