VISUAL BULLETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

TRANSMETROPOLITAN VOL.9: THE CURE (DC/Vertigo, 2001-02)

 まず忘れないうちにカバーに関して。本巻に含まれる#49−51のカバーアートはかのBD(バンド・デシネ)の巨匠Moebiusが手がけております。アメコミとも漫画とも異なるヨーロッパ系コミックの魅力をご堪能あれ。個人的にはタバコを口にくわえ銃を片手に歩くSpiderの絵なんて堪りませんな。


Transmetropolitan Vol. 9: The Cure

 
 「大統領をホワイトハウスから追い出す」 — 職と住処を追われ、その脳も機能障害で徐々に崩壊することを告げられながら、なお最後の”任務”を遂行するべく奮闘する反骨のジャーナリスト Spider Jerusalem。大統領Gary "The Smiler" Callhanが着々と汚職の証拠を隠滅する中、2人のFilthy Assistantsと共に真実へ邁進する彼は遂に決定的な証拠を手に入れる。

 さて、いよいよ残り2巻となった本作。
 この期に及んではもうなりふり構ってなんていられないとばかりに強権的な政権運営を行い、自らの売春に関する証拠隠滅も図る大統領。一方、そんな彼を追い詰めるSpiderの取材も以前とは比べ物にならないほど過激になり、相手によっては暴力をふるうことも厭わない(勿論それなりの理由がある相手にのみだけど)。これまでの”刺激的”な取材をしてきた彼だが、銃さえぶっ放す現在は一線を画している。

 勿論彼は1人で真実を追い求めているわけではない。彼の傍につくChannonとYelenaという2人のFilthy Assistantsは勿論のこと、現在彼のコラムを提供するアンダーグラウンド系ニュース配信サイトの管理人Qiや、以前Spiderのコラムを載せていたTHE WORDの編集長Mitch Royceなど、様々な関係者が各々の方法で彼をバックアップする。
 とりわけRoyceに関しては本巻で初めて彼をフィーチャーした話が含まれる。これまで重要な脇役として登場してきながらも何気にこれまでその具体的な仕事ぶりが描かれて来なかった彼だが、意外や意外、彼自身もかなりの豪腕ジャーナリストであることが明かされる。「お前は書くだけだが、俺はその他の全部をやってるんだ。」などとSpiderに面と向き合って憎たらしい笑みを向けられるのは彼だけだろう。

 さて、本巻ではSpiderの肉体の衰えが大きくクローズアップされる。勿論それは病に依るところが最も大きいのだろうが、それを度外視してもかなり老成した印象を受ける描写が度々見られた。 
 最初に言及したMoebiusのカバーに描かれたようなたくましい上半身を晒す彼は最早いない。今のSpiderは頬もこけ、目蓋も下がり、真っ黒なシャツで体を覆う。初期の快活な姿と比べると痛々しいほどに”老い”は否めない。
 だがそうまでなっても彼の戦う姿勢は少しも変わらない。

 昨年、Bob Dylanノーベル文学賞を取った際に彼が賞を受け取るか受け取らないかという話題に関連して「若い頃の『反体制』は格好良いかもしれないが、老いてからのそれはみっともない」とどこぞの日本人アーティストがコメントしているのを新聞で見かけた。
 こういう言い方をするのはこの人やこの人のファンに失礼かもしれないが、私に言わせればこの人物はその程度の人間でしかないのだろう。
 間違っていることを間違っていると言うのに年齢など関係ない。老いても”真実”を追い求めて躍起になることの何が格好悪いというのだろう。
 そのようなことを言う過去のアイドルより、老いても朝はカエルをテレビに投げつけ、渋滞の際には車の上を飛び渡りながら真実を追求するSpider Jerusalemの方がよほど格好良い。