VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

KARNAK (Marvel, 2015-17)

 一般的なイメージと異なり、若い頃は兵隊としてバリバリ活躍していた哲学者ソクラテスが実はかなりの戦闘的哲学者だったというのは、少し歴史を齧っているものであれば1度は耳にしたことがあるのではなかろうか。
 本作のテーマはそう、哲学戦闘です。


原書合本版(Amazon): Karnak: The Flaw in All Things

 Inhumansとして生を受けたにも関わらず特殊能力を開花するTerrigenesisの儀式を経なかった男、Karnak — 鍛錬によりあらゆるものの”急所”を見つける術を手に入れ、長らく王であるBlack Boltの相談役を務めていた彼だったが、とある事件をきっかけにその役を辞し現在は再び修行と瞑想の日々を送っていた。そんな彼にある日S.H.I.E.L.D.から「誘拐されたInhumansの少年を救出してほしい」と依頼がもたらされる……。

 #1,2を担当したアーティストGerardo Zaffinoが諸事情により急遽交代を余儀なくされたせいで1アークやるのに1年半近くかかった本作。
 先にアートに関して言及しておくとZaffinoも後続のRoland Boschiも非常に良いアクションを描く。特にZaffinoの勢いがありながらどこか静謐とした戦闘描写は独特で、とりわけ#1の終盤から#2の前半にかけての敵拠点襲撃シーンなどは素晴らしかった。カラー担当のDan Brownによる手腕もあってペンシルが交代の違和感もそれほどなく。

 本作で好き放題やっているライターはWarren ”今更紹介する必要もないでしょう” Ellis。彼の実力はMarvelがこれだけ自社キャラクターを自由に弄らせる勇気をひり出せたという時点で推して知るべし。
 Ellisの作品には『RED』や『MOON KNIGHT』みたいにアクション満載の作品も多い一方で『SUPREME: BLUE ROSE』のように哲学をだいぶ詰め込んだ歯応えのある作品も相当あるが、本作はその間の子といったところ。Inhumanの少年を誘拐したI.D.I.C(:International Data Integration and Control — A.I.Mの分派セクト)の繰り出してくるびっくり人間たちは『NEXTWAVE』なんかを思い出させる一方で、禅ペシミズムを追求するKarnakと自らの力で”福音”を世界に広めようとする少年及びカルト教団との哲学的攻防はEllisの非スーパーヒーロー系作品におけるそれだ。

 自らの中に哲学を持つということは、特に意味のないものへ対して意味を与えることによって、意図的に自分を偏らせるということに等しい。哲学に解答がないのは、そこで展開されるあらゆる命題を含めてこれがあくまでツールだからだ。
 本作の主人公Karnakはそういう意味で深い哲学を自らの中に構築している。その人格は強固で一見つけ入る隙がない。
 だが同時に本作で彼が”スーパーヒーロー”として描かれることはない。周囲の者から見れば彼は狂人であり、もっと言ってしまえば本作で最も大量の人間を殺戮している彼こそが本作最大の悪役である。

 彼がそうまでして禅ペシミズムに傾倒する理由は一体何だろう。
 哲学にせよ社会問題にせよ一般的に人が自らの中に偏りを抱える理由とは仲間意識である場合が多い。周囲に自分を受け入れて貰いたいがために人は宗教に入信したり、政党に入ったりする。しかしKarnakはこの限りではない。彼はむしろ他者を遠ざけるために哲学を説き、それに挑戦してくる相手を完膚なきまでに叩きのめす。
 彼がそうまでして追求する哲学、その先に何があるというのか。そのことを考えるのもまた、本作に提示されている1つの哲学なのかもしれない。

 さらっとアクションを楽しむこともできれば深い思索にのめり込むことも可能な少し変わった作品でした。


原書キンドル版(Amazon): Karnak (2015-) #2

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