VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

RONIN (DC,1983-4)

(*本記事はブログ開設初期に書いたものの受験シーズンに縁起でもないタイトルだったのでお蔵入りさせていたのを引っ張り出してきたものである。何かおかしいところがあればそういうことなので悪しからず)

 Frank Miller の初期代表作の1つ。同名のキャラクターが Marvel にいるが何の関係もない。同名の映画が1998年だかに公開されているがこちらも全く関係ない。


原書合本版(Amazon): Ronin Deluxe Edition

 13世紀の日本、悪魔 Agat に主人を殺害されて浪人(Ronin)に身をやつした武士は流浪の果てに復讐を果たすも、敵の計略により揃って一振りの刀の中へ封印されてしまう。やがて時は流れ21世紀のニューヨーク、刀が発見されたことをきっかけに復活した Agat を討つべく、Roninもまた1人の少年に憑依して蘇る。

 Frank Miller について今更説明する必要はないだろう。 BATMAN: YEAR ONE 、 300 に SIN CITY など、代表作を挙げ始めるとキリがない大御所中の大御所。漫画とバンドデシネから影響を受けたという独特のハードボイルドな作風は世界中にカルト的人気を巻き起こし、2015年にはアイズナー賞の Hall of Fame にも殿堂入りを果たした。
 彼が小池一夫原作の『子連れ狼』や『半蔵の門』などのファンであることは比較的知られている(前者についてはカバーデザインも手がけていたかと)が、本作はまさしくそういった時代劇漫画に出てくるような侍をバンドデシネの傑作として知られるINCALの世界にぶっ込んだような趣の作品。

 正直言うと、読む前は「ああ、真面目な SAMURAI JACK ね。はいはい」と思ってたが、読み進めていく内、どうもそう一筋縄ではいかないことが明らかになり、最終的には「いやぁ、良いサイバーパンクを読ませて頂きました」と感服。完璧に騙されました。

 日本文化を取り入れた SF 作品というのは比較的多い。特に最近は従来の忍者や漢字などといった文化に加え、アニメや漫画といったサブカルチャーも広く取り入れられるようになった。だが他方でそういった作品の多くは欧米から見た見栄えの良さからくる先入観に満ちており、日本人が見ると違和感たっぷりであることも少なくない(尤もその違和感が振り切れるとそれはそれでウケるのかもしれないが)。
 Miller が本作で描いた日本像も時代考証だとかを考えるとツッコミどころがないでもない。ただ精神性について、彼の場合は単に侍という日本文化をそっくり持ってくるのではなく、自分のよく知るアメリカン・ハードボイルドという下地の上に日本の”わびさび”を上塗りするような手法をとっているため、日本人でもかなり違和感なく読むことができる(夢枕獏の『黒塚 KUROZUKA』なんかを思わせる)。

 脱線するようだが世界における日本人が(最近はオタク的な描かれ方も多いからそうでもないけど)こぞってあんなにストイックなのには新渡戸稲造の『武士道』が1つ大きく関わっていると私は思っている。日本文化を最初に欧米へ大々的に紹介する場であんな風に日本人の理想と現実の姿をごっちゃにされちゃ堪らん。

 何にせよ、上記の手法を更に発展させて日本の精神性を完全に米国文化の中へ取り入れてしまったのが SIN CITY となる。あれは完全なアメリカン・ハードボイルドとして見られることがもっぱらだが、胃の痛くなるようなストイックさは拝一刀や木枯らし紋次郎のそれに近いと個人的には思っている。本作はそんなMillerの過渡期として読むこともできるかと。

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