VISUAL BULLETS

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PLANET HULK (Marvel, 2006-07)

 以前一度は記事にしてみたものの、あまりの愚痴の多さに自分でも辟易して破棄したものの、その後に観たTHOR: RAGNAROKの予告編で案の定、本作を元にしているグラディエーターHulkが登場、時流に乗って記事にし直してみようとサルベージして修正。なるべく良いところをピックアップして書き直したものの、行間にかったるさが見え隠れしていればそういう経緯があるためだと思って下さい。


原書キンドル版(Amazon): Incredible Hulk (1999-2007) #92

 
 Mr. Fantastic、Ironmanら地球のヒーロー達の手により宇宙へ追放されたHulk。当初は何もない平和な惑星に送られる筈だった彼だったが、(それじゃストーリーにならないので)宇宙空間に発生した歪みにより航路から外れ、暴君が恐怖政治を敷く星に不時着してしまう。軍に捕われ剣闘士としてエンターテイメントのため戦わされる羽目となったHulkだが、再び怒りに満ちた時、彼はアリーナで出会った仲間と共に圧政へ反旗を翻す。果たしてHulkは予言の救い主Sakaarson、それとも全てを破壊するWorldbreakerなのか?

 みんな大好きアリーナ・ファイト。何の恨みもない者同士を1対1で戦わせ、誰が一番強いか競い合わせるゼロサムゲーム。
 ただ単に強敵を1人1人叩き潰して最強に上り詰めるだけのストーリーラインでは既にMarvelユニバース”最強”と謳われるHulkを使う意味はないわけで。多少Hulkに分の悪さをもたらす必要があるというか彼が戦うに値するだけの相手となると惑星1つは要するだろうと。となるとアリーナなんかじゃスケールが収まりきる筈もなく。
 そんなこんなで辿り着いた「捕らえられる」→「嫌々戦わせられる」→「存在感を示すように」→「叛逆」→「勝利」→「崩壊」という見覚えのあるグラディエーターの下克上なストーリー。
 捕獲されるゼロ(というかマイナス)からスタートして勝利の時点まで一本調子に上がり続ける流れは少年漫画なんかでいうところの王道パターンといえ、ベタであることは否めないものの悪い筋じゃない。ライティングを務めるGreg Pakはこのマイナスからどんどん積み上げていくというストーリーが得意なようで、以前彼がACTION COMICSを担当していた時も能力を失ったSupermanの姿を描いていた。

 インテリアのアーティストはCarlo PagulayanとAaronLopresti。最初のアリーナファイトに始まり色んなアクションが次から次へと展開するため、とにかくHulkの活躍を見たいという読者にはいいのではないかと。
 
 幾度となく実写化もされMarvelユニバースではかなりの有名人であるHulk。しかしあらためて考えてみると彼の名エピソードというか代表的ストーリーラインって案外思いつかない。
 そういう意味で本作は「これ」と指せる作品を1つ生み出したと共にHulkという存在に新機軸を加えたという点で評価に値するだろう。


原書合本版(Amazon): Hulk: Planet Hulk (Hulk (Paperback Marvel))