VISUAL BULLETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

WOLVERINE: NOT DEAD YET (Marvel, 1997-98)

 各方面へ数多くの影響を与えながら、他の追随を許さないオリジナリティを備える彼。


原書合本版(Amazon): Wolverine: Not Dead Yet (Wolverine (1988-2003))

 十年ほど前、香港。訳あってこの地に逗留していた Wolverine こと Logan は、ここで世界最強の暗殺者と謳われる男 McLeish a.k.a Gweilo (現地の言葉で ”White Ghost” という意味)と親交を深める。しかし恋人だった女性の父親を McLeish が殺害したことにより2人の仲は破綻、 Logan は港から脱出しようとする彼を殺害する。
 時は経ち、現在。突如として何者かに命を狙われ始めた Logan 。その手法などから彼はこれが死んだ筈の McLeish によるものであると踏むが……。

 90年代の作品って今読むと混沌とした印象を受けるものも少なくないのだけれど、本作に関して言えばライティングもアートも全く違和感がなくするっと入ってきた。
 ライターはもうすっかりこのブログでもお馴染みになったと思われる Warren Ellis — うん、彼の作品は見つけたら片っ端から買うようにしてる。
 アーティストは SECRET INVASION などで今やすっかり Marvel の花形イラストレーターの1人となったフィリピン出身の Leinil Yu 。まだデビューして間もなかった頃の彼のアートは現在と比べると多少薄味な感は否めないものの、顔の彫りの深さなど今とはっきり地続きになっている要素がちらほら見受けられる。90年代後半の時点でこのレベルのアートなら今の彼の地位も十分頷ける。
 
 改めて考えてみるとこの Wolverine という奴は数いるアメコミのキャラクターの中でもかなり特異な存在だ。
 まずスーパーヒーローのシンボルとも言うべきマスクとコスチュームを必ずしも必要としない。本作でもカバーアートでこそ彼はお馴染みの黄色と青のスーツを身に着けているものの、インテリアでは基本的にジーンズに革ジャンというスタイルで一貫している(この辺りはピチピチの衣装を”全身コンドーム”と称するほど(正確には本人じゃなくキャラクターがだけど)スーパーヒーロー・コスチュームを嫌う Ellis の意向も多少影響しているものかと思われる)。ミミズクみたいな髪型とカギ爪で十分シンボリックだからというのもあるだろうが、例えば Cyclops などは赤いサングラスをかけているだけで活躍しても少々物足りなさがあるだろう。そういう意味だと Wolverine は一般的な意味での”スーパーヒーロー”とはかなり趣向が異なる。

 さらに言うなら Logan のミュータントとしての特殊能力は、その手の甲から伸びる爪や自然治癒能力など非常にシンプルなもので、 Cyclops のように常に目を覆っている必要もなければ(何度も例に出してるけど別に嫌いなわけじゃない。というかむしろ好き)、 Rogue のように人との接触に過度に敏感になる必要もないものだ。唯一磁力という制約はあるものの、 Magneto でもない限り彼の動きを制約できるような磁力源を用意するのはむしろ相手側にとっての制約となる可能性の方が高い。
A
 こういったあたりが彼を時にダイム・ノベル系のニヒルなタフ・ガイ、時に James Bond のような快男児、また時にハリウッド型のアクション・ジャンキーと汎用性の高いキャラクターにしているものだろうと思われる。
 シンプルでシンボリック、だからどんなドラマも魅せられる。それが Wolverine だ。
 “I’m the best there is at what I do.” の言葉に嘘はない。