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BATMAN: GOTHAM BY GASLIGHT (DC, 1989-91)

  Batman が産業革命時代に出現していたら?という if を描いたエルスワールド物。まあ、そもそも Batman が初めて世に送り出されたのは1939年なわけで。たった50年舞台がずれようが違和感なんてそんなにないというか全然ないというか。うん、普通に読めますね。 


原書合本版(楽天)(Amazonは下に掲載): Gotham by Gaslight [ Brian Augustyn ]

 1889年、濁ったガス燈が仄かに灯る Gotham の街。渡欧から5年ぶりに帰ってきた青年 Bruce Wayne はかねてから計画していたことを実行する決意を固める。同じ頃、路地裏では娼婦が凄惨に切り刻まれて殺害されるという事件が多発していた。 Gotham に出現した謎の蝙蝠男 Bat-man はかの Jack The Ripper なのか?やがて Gordon 率いる捜査の矛先は Bruce へ向けられ……。

 合本に含まれるのは表題作である GOTHAM BY GASLIGHT と、その続編の MASTER OF THE FUTURE との2作。後者は Gotham で開催されることとなった博覧会を巡り、奇怪な発明品で破壊工作を行う Alexandre LeRoi なる男( Superman と Lex をいっしょくたにしたような、でもどちらとも全く異なるフレンチーな御仁)に立ち向かうべく、一度は引退を決めた Bat-man が再び立ち上がるというあらすじ。

 ライターは両方共 DC その他の出版社で活躍する Brian Augustyn 。初めて聞く名だけれど、本作が代表作の彼は元々エディター出身のよう。アメコミで意外に多いのがこのエディターからライターに転身するというパターン(他にも SHUTTER の Joe Keatinge とか、現在 SUPERMAN を担当している Peter Tomasi とか)。個人的には(あくまで世間的にだが)ホームランこそかっ飛ばさないものの確実に安打を当ててくるという印象がある。
 アーティストは作品によって完全に入れ替わっているものの、 Ripper 関連の前者( Ripper に興味ないので私、何気に Alan Moore と Eddie Campbell の FROM HELL って未読なんですよ。良い機会だからこれにも手を出してみようかなと思ったり)と博覧会を舞台にする後者とじゃ陰と陽といった感じなので間違った判断ではないかと。目立った名前としては GBG の方に Mike Mignola (本作では Michael Mignola という表記)が参加している。今でこそ Dark Horse で HELLBOY ユニバースをサクサク掘り下げまくっている彼だけど昔は結構 DC でもアート担当してたんだったっけか。

 内容的なことに関して言うと、まず前半に関して、既にオリジナルで見覚えのある話を焼き直すエルスワールドでありがちな展開をかったるく感じる私としては、そこに本作ならではの捻りが加えられていたのは好印象。それと Mignola の描く皺の多い革製のマントもとても格好良い。 
 後半も後半でオリジナルの Bruce Wayne にはない関係を加えたり、エルスワールドだといかにも出てきそうな「産業革命版〜」みたいな相手が敵役じゃなかったりと、随所にただ Batman の舞台を移し替えただけではないのだという工夫が感じられたし、結末についてもオリジナルじゃ中々難しいあたり素直に嬉しく感じられた。

 そういや CONVERGENCE には彼も参加してたんだっけか。出るならこちらも入手しようか。


原書合本版(Amazon): Batman: Gotham by Gaslight