VISUAL BULLETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

PUNK ROCK JESUS (DC/Vertigo, 2012-13)

 娯楽と癒着した”彼の国”の宗教 — 本作はその行き着く果てを描いた作品。


原書デラックス版(Amazon): Punk Rock Jesus Deluxe Edition

 2019年。テレビ局の OPHIS が新たに発表した ” J2 ” プロジェクトとは、聖骸布から得られた遺伝子情報を元に Jesus Christ のクローンを生み出し、その成長の記録をリアリティ・ショーとして放映するというものだった。舞台となる島に集められる遺伝工学の権威 Sarah Epstein 博士、警備主任を担当する元 IRA の Thomas McKael 、そして母親となる Gwen Fairling ら — 宗教団体などから殺到する抗議の声を退けながら着々と計画は進められ、遂に新たな救世主がこの世に誕生する……。

 色んな意味で非常に尖った作品。題名にあるPUNK と ROCK に偽りなし。作中の” J2 ”プロジェクト同様、本作自体も現実で各所からお叱りを受けるんじゃなかろかと思っていたが後で聞いたところによるとそれほどでもなかったとか。まあ考えてみればパンクやヘビメタなんてこの手の宗教ネタ多そうだしなあ。

 クリエイターはこれまたエッジの効いたアートが有名な Sean Murphy 。個人的には Batman とかで知られているような印象があったものの、調べてみたところスーパーヒーロー系のインテリアはほとんど描いておらず。 Vertigo や Image といった出版社でのインデペンデント系における活躍が大半。
 そんなアーティストとしては既に盤石な人気を獲得している彼だがライターも兼ねるのはおそらく今回が初めて。はてさてこちらの能力はどんなもんかと初読時はおっかなびっくりな気持ちもあったものの、これが中々面白い。万人受けするような内容ではないかもしれないけれど話の筋は一貫しているし、無理な展開もない。平均より上のレベルに達していることは間違いない(それ以上になるかは個々人の好みによる。私は好きですけどね、こういうの)。

 言うまでもなく、本作はメガチャーチなどに代表される米国の歪なエンターテイメント宗教を風刺したものだ。科学を否定し、強欲さえ合理化してしまう娯楽としての宗教。
 本作はそれに向き合う2つの態度を大きく描いている。
 1つは主人公であり Jesus Christ のクローンである Chris の態度。番組と狂信者によって人生を好き放題された上、母親まで奪われた若干15歳の彼は若者らしい反抗心とバイタリティで徹底してこれを非難し、冒涜し、否定する。
 そしてもう1つの態度は彼をあらゆる危険から庇う Thomas のそれ。彼はリアリティ・ショーに利用される宗教の異常性を認識しながら、それでも Chris が神の子の再来であると頑なに信じる — この腐敗したエンターテイメントにも神の存在が存在すると。
 この2人の態度はどちらも極端であるものの、物語の中でその合理性は示されており、読むものにはそのどちらを否定することもできない。両極端な彼らの関係性から生まれるダイナミズムが本作の牽引力と言える。
 ”神を信じるか信じないか”以上に問うべきなのは、“神は信じるに値するか”という問いなのかもしれない。 


原書合本版(Amazon): Punk Rock Jesus