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SUPERMAN/BATMAN: SUPERGIRL (DC, 2004)

 彼女は必要からでも義憤からでもなく、”希望”からヒーローの道を選んだ。


邦訳版合本(Amazon): スーパーマン/バットマン:スーパーガール

  PUBLIC ENEMIES 事件からやや経った頃。地球に降り注いだ惑星 Krypton の残骸に混じり、一隻の舟が地球に飛来する。 Gotham の川底に不時着したその宇宙艇を見つけた Batman はすぐさま中にいた存在を追いかけるが、街で次から次へと騒動を起こす”少女”へ辿り着くのはそう難しくなかった。
 彼女の見せる怪力、飛行能力、熱戦 — 現場へ駆けつけた Superman は少女が失われた故郷の言語を使っていることに気づき、コミュニケーションを試みる。やがてしびれを切らして問いかけた Batman に彼は答える。彼女の名は Kara Zor-El — 自身のいとこである、と。

 1つの記念碑的な作品であることは間違いない。
 1986年の CRISIS OF INFINITE EARTHS によるリブート以来、存在が宙に浮いていた DC の代表的ティーンヒロイン。90年代には Peter David らの手によりしばし再誕したものの、その何とも一風変わった設定(異次元のエクトプラズマ体が天使と結合しただか何だか……そっちの作品も合本はあるのでそのうち記事にするつもり)のせいか、いまいち振るわないまま終了してしまった。
 今回の話はそんな憂うべき現状の中、 SUPERMAN/BATMAN シリーズのライターだった Jeph Loeb が『 PE 事件で落ちてきた Krypton の隕石が”何か”……あるいは”誰か”を運んできたとしたら?』と着想を得たことに端を発するとか(先に PUBLIC ENEMIES の記事を書いとくべきだったか……まあ、いいや)。

 内容的にはかなり豪華。物語の舞台は Gotham の路地裏に始まり Paradise Island 、 Apokolips 、終いには文字通り宇宙の果てにまで及ぶし、ゲストも Wonder Woman や Darkseid は勿論、ラストには各所のヒーロー達が勢揃いする描写まである。アクションも盛り沢山なら地球に来たばかりの Kara に対する Superman の過保護気味な描写などドラマ面も非常に丁寧。以前 ULTIMATES 3 の記事でも述べたけれど、一見ハチャメチャとも思える物語に合理性を与えられる Jeph Loeb の手腕はお見事と言う他ない。

 本作が記念碑的な作品である理由はもう1つある。
 それはアーティスト Michael Turner の存在だ。
 筋骨隆々としたヒーロー達の佇まいをシャープなタッチで描く彼はアーティストとしてもずば抜けた才能の持ち主なら、 Image は Top Cow レーベルの代表的存在である WITCHBLADE の制作に携わり、自ら Aspen という出版社を立ち上げて海洋アドベンチャー物の FATHOM を世に送り出すなど物語の紡ぎ手としても非常に優秀なクリエイターであった。
 2008年に若干37歳という若さで逝去した彼だが、そんな彼が唯一DC作品のインテリア・アートを担当したのが本作だ(カバーでなら DC や Marvel のスーパーヒーローも多数描いている)。どのコマも一枚絵として圧巻であると同時に、1つのシーンとして見てもどこもかしこもキマっている。
 あらためて惜しい人物をなくしたと思う。

 現在テレビドラマ化もされ人気絶頂の中にある Supergirl — 本作ではその要となる原点の1つを垣間見ることができる。


本作含む原書版合本(Amazon): Superman/Batman Vol. 1