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CAPTAIN MARVEL BY JIM STARLIN (Marvel, 1968-85)

 現在に至るまである種の”聖域”として扱われるスーパーヒーローの最期。


分冊キンドル版(Amazon): Captain Marvel (1968-1979) #29

 惑星Kreeの兵士として地球を偵察するためやって来たMar-Vellはとある事件をきっかけにネガティブゾーンに囚われるが、地球人Rick Jonesと存在を共有することで再びこの世界に復活を果たす。地球に対する認識を改めた彼は故郷の星による侵略、ひいては宇宙から押し寄せるあらゆる危機から地球を守るべく、Captain Marvelとして戦い始める。
 そんな彼の前にやがて全宇宙の支配を目論む最強の敵Thanosが立ちはだかる……。
 これは英雄の生き様、そして死を描いた作品である。

 名作中の名作とも謳われる、俗にTHE LIFE AND DEATH OF CAPTAIN MARVELと呼ばれる作品群。LIFE編の方は彼とThanosの激しい攻防を、DEATH編はそれから数年後にかつての戦いの影響で病に侵された彼の最期を描く。

 メイン・クリエイターは本作はじめINFINITY GAUNTLET(本作は実質IGの前章と言っても良い)など数多くの作品で70年代にMarvelのコズミック界隈を盛り上げたJim Starlin。彼が本作を作っていなければ今度公開されるGUARDIANS OF THE GALAXY 2にDraxは登場しなかった(ここで出てくる時は襟付きマントなんて身につけてますが)ことはおろか、現在MCU全体の黒幕であるThanosさえ影も形もなかった。その功績は大きい。

 さて、CAPTAIN MARVELことMar-Vellは生死の境が(最近は特に)回転ドア式になっているMarvelユニバースの中でも珍しく死の淵から蘇ったことのない御仁だが、合本に含まれるTHE DEATH OF CAPTAIN MARVELを読むと何となくその理由が見えてくる。激しいバトルあり、サイケな描写ありとだいぶ激しい展開だったLIFE編と異なり、彼の死を描くこちらは最初と最後にちらっと戦闘が挿入されるだけであとは終始下り坂をゆっくり下るかのようにMar-Vellが死を受け入れていく様子が描かれる。良くも悪くもJack KirbyのNEW GODSから強い影響を受けている前者と違い、後者はJim Starlin独自の”文学”とさえ呼べるレベルに達している。死と対峙するMar-Vellの葛藤や、それをただ見ていることしかできないRick Jonesら周囲の者達の哀しみなど、Starlin本人が父の死を看取った際の原体験が元になっているというが本作の生々しい描写には心を打たれずにはいられない。

 Mar-Vellの死を後世のクリエイターが無に帰すことはそのままこの作品の評価にも大きな影響を与えるだろうし、それはおそらく良い影響にはならない筈だ。彼の死はSpider-manにとっての叔父の死と等しい扱いを受けるべきだろう(でも今秋出るMARVEL REBIRT…げふんげふん、MARVEL LEGACYって彼が復活するんじゃないかって噂もあるんだよなあ)。

 タイタンの地に佇むMar-Vellの墓標と、それを囲む友人ら — 彼らの頭上で輝く星からは”希望”の光が放たれている。


原書合本版(Amazon): Captain Marvel by Jim Starlin: The Complete Collection


キンドル分冊版(読み始めるならここらからがいいかと)(Amazon)Captain Marvel (1968-1979) #25