VISUAL BULLETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

BORN (Marvel, 2003, #1-4)

 兵士は戦場でしか生まれない。


原書合本版(Amazon): Punisher: Born (Born (2003))

 1971年10月、南ベトナムカンボジアの国境からそう遠くない場所に位置する米軍基地。後方からの支援もロクに受けることも出来ず、中央から見捨てられた問題児ばかりが集まるここに1人の兵士がいた。
 男の名はFrank Castle。
 これは、やがて摩天楼の裏社会を震え上がらせることになる”制裁者” — その誕生の物語である。

 本作は誰もが知るPunisherの物語じゃない。そもそもここに登場するFrank Castleという人物は誰もが知るPunisherと似て非なる人物だ。本作は謂わばこのFrank Castleという男が人間の皮を脱ぎ捨ててPunisherになるまでの変化、そのきっかけをを描いた作品と言える。

 Frank Castleが主人公ということ以外はスーパーヒーローな要素も皆無でMarvelユニバースなんて微塵も感じさせない本作なものの、Wikiなんかを見てみると一応別の作品でTony Starkが目を通している資料に端を発している作品だとか。

 メインのクリエイターはライターGarth EnnisとアーティストDarick Robertsonという、後にTHE BOYSで再びタッグを組むことになる2人。この時点で心惹かれずにはいられないわけで。しかも戦争マニアのEnnisが最も得意とする戦場が舞台な上にRobertsonの魅力がフルに堪能できる(良い意味で)泥臭い人間ドラマとなればもう堪らんですよ。

 上記の通り本作に登場するFrank Castleは後に骸骨のシャツを身に着けるヴィジランテとは別人だ。ここのFrankは戦場で人間に汚い部分をうんざりするほど見せつけられながら、なのに戦争という行為に取り憑かれてしまった1人の兵士に過ぎない。
 彼がそもそもどうして軍に入ったのかは本作でも語られない。もしかするとナイーブな頃の彼にはまだ”愛国心”なんてものがあったのかもしれない。だが戦争の終わりが近づくにつれて彼を衝き動かすものはパトリオティズムから単なるブラッドサーストに変わっていく。そしてそんな自らの欲を正当化するために彼は最終的に”罰を受けるべき相手”というのを作り上げるようになる。
 本作を読むとこれまで彼のオリジンと思われていた家族の死さえも、彼にとっては他の何であっても構わない口実に過ぎなかったことが透けて見えてくる。

 そう、彼の鍛え上げられた肉体が実は傷だらけなように。その鋼が如き心が実は抜け殻でしかないように。
 殺戮マシンのような彼も、その実態は1人の戦争被害者でしかない。
 現在のPunisherの胸に浮かぶ髑髏 — それは彼自身のものなのかもしれない。


今回の記事で紹介した話も含む新装版合本(Amazon): Punisher Max Complete Collection Vol. 1 (The Punisher: Max Comics)