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VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

HELLBOY IN MEXICO (Dark Horse, 2010-16)

 白い太陽、乾いた大地、テキーラ、タコスにルチャ・リブレ。神秘が通りを練り歩く、ここは南米。メキシコでござい。


原書合本版(Amazon): Hellboy in Mexico

 1956年。悪魔などの大量発生現象を捜査すべくメキシコにやって来た Hellboy 。だがそこで目にした凄惨な光景に同僚の B.P.R.D. 捜査官達は我先にと逃げ出してしまう。たった1人で調査を続ける Hellboy の前に、やがてレスリング・マスクを被った三兄弟が姿を現す……。
 これは Hellboy の空白の時間を描いた物語。

 HELLBOY IN HELL で久々に味をしめたところ、そういや正篇から脱線しているため以前見送った合本があったことを思い出し入手。
 合本に含まれているのは5編。どれも上記あらすじにある通り、1956年にメキシコへやってきた Hellboy が飲んだくれて記憶を失ってしまった空白期間を埋める短編連作形式になっている。作品同士は緩く繋がってこそいるものの、直接的に結びついているのは表題作の HELLBOY IN MEXICO と最後の HOUSE OF THE LIVING DEAD のみ。ライターこそ Mike Mignola で共通しているものの、どれも発表された時期も媒体も異なれば、絵も別々のアーティストが担当している。
 Mignola を筆頭に Gabriel Ba や Mick McMahon など、独特の持ち味を備えた描き手ばかりで誰も彼も魅力的だが、個人的にはやはり Richard Corben の絵が堪らなく良い。
 Corben については以前語ったことがあったっけか( Twitter でしか語ってないかも)。70年代のホラーコミック・ブーム時代から活躍してきた彼は非常に特徴的な造型と影の入れ方をするホラー界の巨匠とも言うべき存在(日本の漫画家に喩えるなら水木しげるみたいな御仁かと)。彼の ROWLF なる作品は宮﨑駿と手塚治虫によるタッグでアニメ化する企画もあったとか、その計画が頓挫した後に制作されたナウシカにも多少影響を与えているとかという話もある。現在も Dark Horse を主な舞台に精力的な作品制作を続けており、本作以前にも THE CROOKED MAN という話で Hellboy を描いている。

 で、今回。いや、舞台のメキシコと Corben のアートの親和性が高いこと高いこと。あらためてこの人のアートの良さを実感。とりわけ寂れた村の寂しげな雰囲気を描かせたら右に出る人はいませんな。おどろおどろしい亡者達に囲まれたリングの上でレスリング・ファイトを繰り広げる Hellboy の、少し調子っ外れなアクションもとても魅力的。多少癖がある絵柄のためあるいは好みが分かれるかもしれないが、ぐっとくる人にはホントにグッとくる。

 ホラーとコメディとはコインの裏表とはよく言ったもので Hellboy には背筋の凍るような魑魅魍魎が次から次へと登場するものの、それら異形達には常にどこかしら愛嬌のようなものが漂う。
 本作はホラーが苦手な方にこそ是非読んで欲しい一冊。