VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

VOODOO HEART by Scott Snyder (Dial Press, 2006)

 若き日の Scott Snyder が”心の軋み”を描いた珠玉の7編。


原書版(Amazon): Voodoo Heart

 ええと、まず最初に言っておくと本作はアメコミではありません。短編小説集です。
 アメコミではないもののアメコミに関係するかな?と思うものを不定期に紹介する記事を取り敢えず『BETWEEN THE PANELS』と題したミニコラムで紹介することにしてみた次第。
 今回紹介する作品は現在 DC のトップランナーであるライター Scott Snyder がコミック・デビューを飾る前に雑誌等で発表した7つの短編を集めた事実上の商業デビュー作。ただ実際に読んでみると扱っている内容がコミックとかなり異なるため、同姓同名の別人ではないかと驚くかも。
 収録されているのは元恋人を求めて飛行船を求める男の姿を描いた “BLUE YODEL” 、ある理由から経歴を偽る青年とそんな彼を助けようとする友人との仄かな友情の物語 “HAPPY FISH, PLUS COIN” 、事情により労役場に勤める男性がそこで出会った女性に恋するも……な “ABOUT FACE” 、かつて祖母を捨てた祖父に対する思いから愛する彼女との一歩を踏み出せない彼の苦悩を紡ぐ “VOODOO HEART” 、とある有名人と恋愛関係に陥ったことによるトラブルを描いた “WRECK” 、彼女をシンガーソングライターに掠め取られた元ボーイフレンドがそのツアーを追いかける “DUMPSTER TUESDAY” 、そして結婚式から逃げ出した花嫁と飛行機乗りとの短く淡い恋を描いた “THE STAR ATTRACTION OF 1919” の七編。
 どちらかというと一般的なエンターテイメント小説よりも地の文が多く、作品の傾向にしても純文学的。すっきりした文体ながら読んでいると寂しさや切なさといった感情が心に染み渡ってくる。
 
 全ての作品に共通するのはおそらく心の歪み。とは言ってもそれは Batman に登場する Joker や Two-Face といったキャラクターが抱えているような常軌を逸したレベルではなく、そこらを歩いている誰もが普通に秘めている程度のもの。だが Snyder はそれをこれまた小さな嘘や嫉妬と掛け算することで増幅させ、各編で爆発させる。その瞬間は勿論のこと、そこに至るまでのプロセスの描写も不思議なほど違和感がなく、とんでもない行為でも読むこちらに思わず「自分も同じ立場だったら……」と共感させてしまう。逆を返すと、 Snyder はこの手法をコミックで Arkham の狂人達に適用したからこそ数々の名エピソードを生むことができたのかもしれない。

 私個人のお気に入りは表題作の ”VOODOO HEART” 。ラストを読み終えた時は思わず唸りを上げてしまった。

  Snyder のファンであるなしに関わらず、誰にでも勧めたくなる作品集。