VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

FLASH: WONDERLAND (DC, 2000-01, #164-169)


  Geoff Johns による Flash を読まずして”世界最速の男”を語るなかれ。


旧版合本(今から集めるなら下に掲載してある品をどうぞ)(Amazon): Flash, The: Wonderland

 ”世界最速の男” The Flash — その3代目の座を継いだ Wally West はある日、気が付くと警察に逮捕されようとしていた!スピードスターとしての能力も失われ、記憶も覚束ないまま事情を説明しようと試みる彼だが、警官達は Flash などというヒーローについて一度も耳にしたことがないと嘲笑う。一体、世界に何が起こったのか?同じく元の世界に関する記憶を保持する Captain Cold の協力を得てその場を逃れた Wally は謎の解明に乗り出す。

  Wally West a.k.a Flash の黄金時代であると同時にそれまで JSA などで既に頭角を表しつつあった Geoff Johns がコミック業界へ本格的に参入してきた初めての作品。このランを読めば New52 時代にどうしてあれだけ多くのファンが Wally West の復活を希望し、 REBIRTH で彼が帰還した時に歓喜したかがよくわかる。 Flash というヒーロー、ひいてはその後の DC 全体の方向を決定づけた1つの要石であることは間違いない。

 その誘い水となる今回の話では Wally West から Flash のスピードと伝統を取り払うところから始めている。
 実のところ私はあまりこのヒーローから能力などに制限を加えることでマイナス状態からビルドアップしていく類のストーリーはあまり好みじゃない。読んでるこちらが見たいのはヒーローがそのポテンシャルを余すことなく発揮する大活躍であって、クリエイター側の恣意的なリミッターを課せられた彼らのもがく様ではない。マイナスから初めて最終的にゼロに至るだけの話などもっての他だ。力が出せない時こそその真価が云々という意見も理解できないではないが、往々にしてこの手の話はそういった描写を忘れて単なる下克上物語に終わってしまう。
 ただ、そういう意味だとその点をしっかり描いた今回の話はかなり優秀だと言える。
 
  Jay Garrick が Flash になることなく死亡した世界では Barry も (Flash とは別に存在するこの世界の)Wally も薬品事故に遭うことなく、ただの一般人として日々を過ごしている。 Flash がいなかったばかりにスーパーヒーローの活躍もぱっとせず、彼らは犯罪者とそう変わらない目で大衆から見られている。
 そんな中でも Wally は自暴自棄になることなく、自らの中にある Flash という伝統に対する敬意と誇りを頼りに少しずつ真相に迫っていく。今回の話は Geoff Johns がこれから描こうとする Wally の自己紹介としてもよく機能していたが、それ以上に Flash がその他のスピードスターと異なるのはこの常に正しくあろうとする強さと精神なのだと改めて認識させる契機ともなった。

 加えて、今回の話では今後も登場してきそうな新しいヴィランを登場させたり、 Rogue 達に対する Flash の考え方にも少し変化を促していたりと後に続く話への布石や Wally のプラスの変化も垣間見えた。

  Johns の描く長い物語、その始まりであると考えればマイナスから始まったことも頷けるし、むしろ最良の切り出しとなったといえるかも知れない。


本記事で紹介した内容含む原書合本版(Amazon): The Flash By Geoff Johns Book One