VISUAL BULLETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

RASL ACT TWO: THE FIRE OF ST. GEORGE (Cartoon Books, 2008, #4-7)

 全ての科学者は少なからずマッド・サイエンティストである。


分冊キンドル版(Amazon): RASL #6

 不思議な装置で並行世界を渡り歩く男、 Rasl 。軍からの命令で彼を追うトカゲ顔の男 Salvador Crow は48時間以内に”ある物”を差し出さなければ彼の大切な人間を殺していくと脅迫する。軍に研究が悪用されることを恐れるRaslは何とか追跡を逃れつつ、恋人を守ろうと画策する。するとそんな彼の前に奇妙な少女が姿を現し……。

  Jeff Smith の不気味な演出が際立つ SF ノワール第2章。
 前章では軽く触れられていた程度だった Nicola Tesla が本章ではさらに存在感を増すと共に、 Philadelphia 実験などの陰謀論的要素が次々とぶっこまれる。加えて軍からの追手であるトカゲ男 Sal もその賢くサディスティックな性格を強め、また新たに Rasl の前へ姿を現すお目々パッチリ少女や、 Nicola Tesla の日誌を彼に渡す謎の研究員だのが登場し、気味の悪さが益々盛られている(あ、でも少女の方は慣れると段々可愛く見えてくる)。科学アドベンチャーシリーズとか好きな方は結構この作品、のめりこめるんじゃないかと。
  Smith の90年代あたりのアメリカン・カートゥーンを思わせる絵もまた、物語の雰囲気を壊さない程度にデフォルメされたバランスの良い描画で独特の空気を演出するのに一役買っている。

 今回の章は前章で構築した世界観を掘り下げる意味で Rasl — 本名 Robert Joseph Johnson — の過去に大きくページが割かれる。”博士”と呼ばれる彼がどのような経緯で時空間を転移する装置を手に入れ、どうして現在の境遇に身をやつしたのか。彼の腕に刻まれた” MAYA ”とは誰で、一体どういう関係だったのか。 Nicola Tesla に関する話も含めて客観的な情報量が多いのが今回の章。
 一般に過去回想は現行のストーリーを遅らせたり読者に時系列を困惑させたりすることもしばしばなので、必要最低限に留めると同時に実はかなり神経を使うべきところ。ただ本作に関して言えばまだ物語の前半なのにクライマックス並みにRaslが満身創痍なのでむしろ減速はありがたいというか。タイミング的には正しかったな、という印象。

 その過去回想で大きくスポットライトを当てられるのが Rasl と、幼馴染で元同僚(ついでに件の女性 Maya の旦那でもある) Miles との研究を巡る亀裂だ。
 知恵の求道者であり文明の開拓者である科学者という存在。だが表面的なところでいくら取り繕ったところで昨今の AI に関する議論などをみればわかる通り、総じて安定性を求める社会にとって彼らは現状の破壊者であり鬱陶しい異分子だ。
 そんな科学者が頭角を現す方法はしばしば強引で思慮を欠いたものとなる。
 本作で Rasl と Miles が突き進む姿 — それは決して狂った科学などではなく。
 科学に狂っているに過ぎないのだ。


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本記事で紹介した内容含む原書合本版(Amazon): RASL: Omnibus