VISUAL BULLETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

FREAKANGELS VOL.1 (Avatar Press, 2008)

 23年前、色の抜けた肌と紫の瞳、そして恐るべき力を持つ12人の子供達がイングランドの地において生を受けた。
 17年後、世界は滅んだ。
 この物語はその後残された僅かな人類と、彼らと共に生きることを選んだ奇形の使徒達の行く末を描いた作品である。


原書合本版(Amazon): Freakangels, Volume 1 FREAKANGELS V01 [ Warren Ellis ]

 久々の Warren Ellis 。本作は彼が Avatar の特設サイトを通じて発表したウェブコミックシリーズ。その第1巻である本巻は物語の始まりということもありメインとなる Freak Angels(+1) の面々を紹介しつつ、物語をゆっくりと漕ぎ出した印象。一応、ジャンルはスチーム・パンクに含まれるらしいものの、それらしくしているのは今後 FA の中で中核を担っていくと思われる KK (彼女の本名 Kolfinnia Kokokoho Titching の ”Kokokoho” は日本語でフクロウだかを意味するらしいけど何のことを指しているのか見当がつかん。わかった人は是非教えて下さい)のみ。外からやって来るような人たちは普通にモーターとか使ってるんでそれ目当てで読むと裏切られることになるかも(そんな奴いないか)。
 
 相変わらず Ellis の作品に登場するキャラクターはイタくて格好いい。毒を含んだ挑発的な言葉遣いにアンバランスな物腰、高い能力値を相殺する基本スペックの低さにどこか頭のネジが緩んだ行動の数々 — そんなEllisのトレードマークみたいなキャラクター造形が本作でひしめき合っている(無論、キャラクターがワンパターンという意味ではない)。

 今度の話はとりわけこれらの人間同士のコミュニケーション、あるいはディスコミュニケーションに焦点が定められそうな予感。 Ellis の作品は TRANSMETROPOLITAN や TREES をはじめとして、政治や経済、あるいは歴史などといった社会構造から人間にアプローチする物語が多い。登場人物の行動は基本としてその接触に対するリアクションで、それはグローバルな観点に広がれば広がるほど直線的になる。
 本作もそんな構造からのアプローチを描いた作品なのだろうが、そこに既存のシステムを流用していないという点に大きな特徴があるように思われる。物語の舞台は世界が破滅した後、(それを実行したと思しき) FA らがロンドンに再建した小さなコミュニティだ。市町村単位の範囲を舞台にした Ellis の作品には他に以前ここでも紹介したことのある FELL があるものの、現代の都市を踏襲したあちらとは異なり、本作で FA が管理する元英国首都は建造物こそ過去の形を留めているものの、現在の運営体制がどういった経緯で成立し、意思決定のプロセスがどうなっているかなどについては作中で示された範囲でしか知ることが出来ない。
 元からあったものを歪めるのと、ゼロから構築したものとでは同じ形をしていても強調される部分は異なる。 FELL の Snow City ではどこか普通の都市と違う”歪み”が読む者の不安をかき立てたものの、本作のロンドンにおいてそれは「事務的なプロセスを踏んでいないから仕様がないよね」という読者の無自覚な妥協からバックグラウンドのレベルにまで格下げされている。
 故に物語の中で登場人物に触手を伸ばす”システム”の本体が曖昧になっていることから、相対的に浮かび上がる人間同士のコミュニケーションはどこか方向性を欠いているように見え、その分だけ有機的に映る。

 物語が進むに連れ、徐々に明らかになるであろう舞台の”構造” — それはそのまま Ellis が本作に託した作品のテーマでもある。それが一体何なのか、今後も追っていきたい。
 あ、ちなみに本作は今もネットで無料公開しているようなので興味があったら読んでみるといいかもです。


原書合本版(Amazon): Freakangels Volume 1 Hardcover