VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

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RASL ACT FOUR: THE LOST JOURNALS OF NIKOLA TESLA (Cartoon Books, 2008, #12-15)

 本作におけるもう1人の主人公、その末路とは……。(若干結末のネタバレ入るので注意)


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 遂に世界が狂い始めた。軍の実験で並行世界に穴が空いたことによりもたらされた悪夢が如き惨状を目の当たりにした Rasl は、今一度親友の開発した機械を破壊すべく軍の施設へ潜入を試みる。 Rasl という名前の意味は?彼の持つ Nikola Tesla の日誌の行方は?そして第3の装置を所有する謎の人物の正体は? — 全ての謎がここに明らかとなる。

 カートゥニスト Jeff Smith の新たな代表作 RASL 、その第4部となる本章。謎は解明され、こじれた人間関係は解消し、きれいに物語がまとまる完結編でございます。ヒッピー・トリッピーだった前章よりも並行世界や量子力学にまつわるけったいな描写もぐっと減り、再びとっつきやすくもなっている。多少ご都合主義的な展開がないとは言わないものの、これまでの物語を読んでこれたのなら十分に看過できるレベル。むしろこの難しい内容に対して、よくこの程度で済んだなと喝采を贈りたい満足度の高さ。ほら、スピリチュアル界隈で最近流行ってる引き寄せの法則だっけ?あれが作用しているとでも思えばいいんじゃなかろか。

 第2章、第3章とその素性が少しずつ明らかになるにつれて徐々にその不気味さを削ぎ落としてきた敵の刺客 Sal Crow が本章において再びキャラクターとしての魅力を獲得したことが好印象。
 口は災いの元というわけじゃないが、基本的にミステリアスな雰囲気というのはキャラが口を開く度に霧消してしまうもの。 Crow についても、登場当初は凶悪な空気を醸す不気味な人物だったのが、 Rasl と会話をするごとに少しずつ当初のインパクトが薄れ、終いには高官の隣に行儀よく控えちゃったりして何だか小役人になっちゃったなあ、と思っていたものの、ここに来てそれまで鎖に繋がれていた犬が飛び出すかのように暴走、再び異彩を放つようになった。
 だが、今度のそれは当初の不気味さとはベクトルの異なる狂気だ。
 狂気とは1つの信念がその人物の中で凝り固まった結果として成立する行動原理である。自らを律し、引っ張り上げる筈の”動機”が逆に自らを後ろから衝き上げるものとなった際、人が自身と他者との間に引く線は言葉を紡げば紡ぐほど濃くなり、怪奇性を帯びる。
 本章における Sal についても同様だ。 Rasl を執拗に追い詰め、抹殺しようとする彼がその憎しみの理由を吐露する時、読者はそこに自身も抱える感情の突然変異とも言うべき異常を見出すだろう。同情すべきか、忌避すべきかわからない不思議な魅力 — これこそが私達を狂気に惹きつけて已まないものだ。

 物語が終わりを迎えると共に Rasl と Crow の関係にも1つの決着が付く。しかし、それで全てが解決したとはとても言い難い。 Nikola Tesla の研究を巡る Rasl の戦いは、同時に Sal の戦いでもあった。故に Rasl が生きている限り、彼の中に Sal も生き続ける。
 物語を読み終えた読者の中に生じる余韻には、この作品におけるもう1人の主人公である彼の禍々しさも色濃く残っている。


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