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SWAMP THING VOL.3: ROT WORLD: THE GREEN KINGDOM (DC, 2012-13, SWAMP THING #12-18, ANIMAL MAN #12, #17)

 怪物譚として、英雄譚としての有終の美。

 復活した最凶の敵、 Anton Arcane に立ち向かうため、 Buddy Baker a.k.a Animal Man と共に Rot の本陣へ乗り込んだ Alec Holland こと Swamp Thing 。だがそれは敵の罠だった。弾き出されて帰還した2人は、死と腐敗に支配された世界を目の当たりにする。さらに Rot の拡散を止めようとして恋人 Abby が死亡したことについて聞かされた Alec は、 Arcane への復讐を誓うと共に世界を元の形に戻すべく、まずは対抗するための武器があるという Gotham へ赴く……。
 
  Scott Snyder と Yanick Paquette 、 Marco Rudy らによる Swamp Thing の新たなる物語、その完結編である本巻 『ROT WORLD』 は、 Snyder の盟友であると共に本連載でもお馴染みのライター Jeff Lemire が手がける ANIMAL MAN とのクロス・オーバー。読む前はこれが吉と出るか凶と出るか半信半疑だったものの、物語の整合性やキャラクターの声といったストーリー面もきちんとしていたし、 ANIMAL MAN の方を担当する Steve Pugh のアートも思った以上に Paquette らの絵柄とマッチ。

 ただ、だからこそ SWAMP THING#17 で全く絵柄の異なる Andrew Belanger を起用してしまったのが残念。 Belanger のアートが上手かどうかという問題はともかく、それまでリアリスティックなアートで来たのに、物語が最高潮に達する総力戦シーンで突然カートゥーン調な絵柄に変えてしまったばかりに話の腰を折られてしまったという印象が否めない。

 尤もそれさえ看過できれば本巻はホラーアクションとして圧巻の出来であるといえる。
 人がクトゥルフの神々のような全く理解できない存在に対して抱く恐怖と、ゾンビやサイコパスなど理解の余地がある存在に対して抱く恐怖とは似て非なるものだ。前者は脳のキャパシティ・オーバーによる混乱からくるそれなのに対し、後者はなまじ人間の姿をしているがためその奇形を見せつけられることへの嫌悪からくる心の痛みとでもいったところ。
 そういう意味で本作が読者にもたらす恐怖は後者だ。 Rot に侵食され奇形化したヒーローを皮切りに、本巻では物語の存在に伴い Alec や Buddy にとってより身近な存在がグロテスクな姿で登場する。それを目の当たりにする主人公達の愛憎綯い交ぜな心中は、そのまま読む我々の心にも投影される。

 単なる怪談としてならこの時点でも十分優秀だが、 Snyder はここにもう一捻り加えることで本作に英雄譚としての性質も加えた。

 ようやく愛する Abby のもとに辿り着いた Alec 。だが世界を救うためには彼女を Rot の新たなる依代として犠牲にしなければならない。その時の Alec の心を引き裂かれそうな思いは実のところ、先に Arcane の手先として脳をくり抜かれた状態で登場した彼女を見た時の心の痛みとほぼ同じ性質のものなのだ。
 愛する者の変わり果てた姿を目にした際の恐怖と、今また愛する者を死の世界へ送らなければならないという哀しみ。
 読む者に恐怖と絶望を与えたのと同じナイフで、今度は希望と悲哀を演出してみせた Snyder の手腕は見事という他ない。

  Swamp Thing をひたすら沼の怪物として描いた Alan Moore のサーガに対し、本サーガは守護者としての彼を描いた秀作といえるだろう。


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