VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

PUNISHER: THE SLAVERS (Marvel, 2005-06, #25-30)

 これが必ずしもフィクションではないことを忘れてはならない。


分冊キンドル版(Amazon): The Punisher (2004-2008) #25 (The Punisher (2004-2009))

 ある夜、麻薬ディーラーを襲撃しようとしていた Frank Castle a.k.a Punisher はその間に割り込んできた1人の女性を保護する。奴隷として故郷から米国へ売られてきたという彼女が受けた仕打ちを聞いた彼は、次の標的をその雇い主であった Tiberius 、 Cristu Bulat 親子に定める。だが同じ頃、 Punisher に狙われていることを知った Cristu らも懐柔する警察官 Westin を通して、 N.Y.P.D. に厳格な対 Punisher の姿勢を打ち出させようとする。 Punisher と遭遇した経験を良いように利用された部下の Parker と Miller はそのことに苛立ちを募らせるが……。

 引き続き Garth Ennis による Punisher の金字塔シリーズ。アートは前回と同じくペンシルに Leandro Fernandez 、インクに Scott Koblish 、カラーに Dan Brown など。
  Dan Brown のカラーは大都会の裏側を舞台にしておりやもすると単調な色遣いになりやすい本作において、壁や夜空の色に至るまで拘って変化をつけることでそれを回避すると同時、ストーリーの起伏も強調させており、よく見るノワールとは少々趣の異なる演出をしている。暗闇の中、キャラクターの上にぼかした色をあてるなどの工夫も面白い。

 本作は路地裏に生きる人間模様を描いた作品ではあるものの、例えば Ed Brubaker と Sean Phillips による CRIMINALS に代表されるような”ノワール(あるいはネオ・ノワール)”に分類されるものではない。
 ノワールというのは主人公などの主観が物語と呼応し合っており、ファム・ファタールがいて、憎らしい敵役がいてと、ある程度の様式美が整っている。感覚としては時代劇に近いだろう。
 
 対して本作はと言えば、主人公である Punisher の心情は確かに随所で語られているものの、そこに変化は乏しく、”役柄”としてはストーリーとあまり連動していない。むしろストーリー内で扱われるテーマ(例えば今回はセックス・トラフィッキング)を冷静に見つめ、それに随所で所感を零す彼の視点はドキュメンタリーのカメラマンに近い。
 
 こうして見た時、先に挙げた Brown のようなアート・スタイルは陰影などによるキャラクターへの意図的な強調を廃し、むしろ起こっている事件そのものを際立たせるという意味で Ennis が本作でやろうとしている問題提起的な作風にぴったりだ。
 
 現実(ノンフィクション)で起こっている問題を引き出すためのフィクション — それをこの作品は間違いなく実現している。


分冊キンドル版(Amazon): The Punisher (2004-2008) #26 (The Punisher (2004-2009))


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本記事で紹介した内容含む原書合本版(Amazon): Punisher Max: The Complete Collection Vol. 2