VISUAL BULLETS

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THE FLASH: MOVING RIGHT ALONG & BIRTH RIGHT (DC, 2001, #174-6)

 混じりっけなしの高速アクション!


本記事で紹介した内容含む原書合本版(Amazon): The Flash By Geoff Johns Book One

  Keystone City の都市部に妻 Linda と引っ越してきた Flash こと Wally West 。新生活で心機一転を図る傍らスーパーヒーローとしての活動にも精を出す彼だったが、ある日亡くなった元恋人 Julie Jackam の子供の父親が自分ではないかと疑われて……?

  DC のショー・ランナー Geoff Johns による三代目 The Flash a.k.a Wally West の活躍を描いたランを引き続き。#174の『 MOVING RIGHT ALONG 』編と#175−6の『 BIRTH RIGHT 』編とは別々のストーリーなのだけれど、前回の話で Cicadas により殺害された Wally の元恋人 Julie の子供を巡る謎で話も接続してりゃクリエイター陣もほぼ変わらないので今回まとめて記事にしちゃいました。

 これまでの話では事件を通して「 Flash とは何たるや?」と問いかけるような深みのある内容だったのに対し、今回の話は見出しでも述べた通り良い意味で頭を空っぽにして楽しむことのできるスーパーヒーロー・エンターテイメント。どちらかといえば Flash の日常風景的な傾向が強い。
  Scott Kolins のアートは下手にディープな内容があるより、こういう軽めなストーリーの方がしっくり来るような気がする。日常からヒーロー活動への移行が非常にシームレスと言おうか、 Flash としての彼も Wally West としての彼もどちらも同じ人物だなというのがすっと入ってくる。

 今回のようなサクサク読めてしまえる中身のエピソードはさして大局的な変化をもたらすわけでもないため、特に合本なんかで読んでいると軽く見飛ばしてしまいがちだが、長い目で見た時にはこういう話が随所にあることはかなり重要になってくる。 
 以前別の記事(確か Detective Comics か何かだったかと)でも述べたと思うが、最近のコミックはともすると宿敵との対決に続いて世界の命運をかけた戦いへ赴き、さらに悲劇が待ち受けているといったような具合で、息吐く暇もない作品が多い。
 いくら内容が面白くとも重要な局面に続く重要な局面ではイベント疲れじゃないが読んでいる身としては少々食傷気味になってしまう。時にこういった”軽薄”なエピソードでガス抜きをするのは、読者の胸焼けを回避すると同時に物語に起伏をもたらすという意味で重要だ。
 加えてこういった小ぶりな話は神格化されてしまいがちなスーパーヒーローをより地に足の着いた存在として描く役割をも果たすし、後に続くビッグストーリーのために伏線を張るホットスポットとしても機能する。何気にいいことずくめなのだ。
 そして Johns の素晴らしいところは上で述べたような機能をフルに活用していることだ。 Wally が引っ越しの荷解きで失敗したり義父とのやり取りに辟易したりする傍ら、ホッケーの試合に乱入する Tar Pit を退ける姿にはそれが端的に現れているといえよう。
 
 何と言ってもヒーローが笑顔を浮かべながら危機を脱して人々を救う姿というのはやっぱり格好良い。