VISUAL BULLETS

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RUNAWAYS: DEAD END KIDS (Marvel, 2007-08, #25-30)

またの名を Joss Whedon の黒歴史。


分冊キンドル版(Amazon): Runaways (2005-2008) #25

超人登録法に従うことを拒否したことから再び追われる身となった6人(+1匹)の家出キッズ。生まれ育った西海岸を離れ NY へ三度やって来た彼らはかつてPrideと中立関係にあった Wilson Fisk a.k.a Kingpin と接触し、彼に庇護を求める。そこで交換条件として”ある品”を盗んで来るよう命じられた彼らは渋々それに従うも、 Punisher の出現に見知らぬ鉄翼の男による介入、さらに逃げようとした矢先で待ち受けていた Fisk 率いる忍者集団から襲撃まで受け、事態は混迷を極める。何とかやり過ごそうと盗んだ装置を作動させた子供達は、だが気が付くと100年前の世界にタイム・スリップしていた……。

 予告していたものを先延ばしにするのはあんま好きじゃないんで。シリーズの総括的な内容も含めて片付けてしまおう。

 今や ASTONISHING X-MEN のライター、そして何より実写映画版 AVENGERS の監督として雲の上の存在となってしまった Joss Whedon 。しかし、 RUNAWAYS のファンにしてみればシリーズを台無しにした大罪人として今でもあちこち掲示板などで叩かれていたり。

 先に今回のストーリーに関して私個人の感想を述べておくと、確かに Brian K. Vaughan と Adrian Alphona のランと比べると多少目劣りするし、いくつかやらかしちゃったなと思うような点がなかったとは言わないものの、そんな吊るされるほどのものでもないかなといったところ。
 多分 Vaughan のストーリーとの落差というか傾向の違いがあんまり鮮明過ぎたのが大きな敗因かと。このくらいのレベルなら世に掃いて捨てるほどある(言い方悪いか)。

 そもそも Vaughan と Whedon ではキャラクターに対するアプローチが異なる。そのことは Molly Hayes の扱いなんかを見るとわかりやすい。
  Vaughan の頃の彼女は子供のような振る舞いもしつつ、でも実は他のメンバーが思っているより芯も強ければ機転も利く割と大人びた人物として描かれていた。一方、Whedonの手がける彼女は理不尽でやや融通の利かない年相応の子供だ。
 どちらがリアルかということを考えた時にはおそらく後者の方がそれらしいのだろうが、キャラクターとしてどちらの方が魅力的かということを考えるとほぼ間違いなく前者に軍配が上がる。 Whedon の Molly は現実にいそうではあるもののいたらいたで面倒臭そうなのに対し、 Vaughan の Molly は自分の妹か娘にでも欲しくなるほどの理想っ娘だ。

 で、何が Vaughan の彼女をそんな人物にしているかと考えた時、その候補の1つとして(陳腐な答えかもしれないが)”愛”という結論に辿り着くことができる。
  Vaughan の描くキャラクターにはほぼ常に明確な愛情の指針がある。再び Molly の例で考えてみるなら、彼女は常に「仲間(いつもの面々や#13で一緒になった子供達など)」に対する愛情、それに基づく利他意識が常に行動原理となっていた。故に時として大人っぽい言動もしたし、現実の同い年なら臆してしまうような相手にも果敢に立ち向かっていく。アニメオタ(がこれを読んでいるかは知らんが)にもわかりやすく言うなら、リリカルだったり円環の理と似た精神成熟を見せているというわけだ。

 これは勿論 Molly に限った話ではなく、その他のメンバーや彼らの両親、果ては作品の黒幕的存在である古の神々 Gibborim みたいな輩共に至るまで、誰もが誰か他の者に対するはっきりとした愛情を向けており、それに即した行動を取っている。
 そしてここで忘れてはならないのが Adrian Alphona のアートによる効果だ。 Alphona のアートは他のスーパーヒーロー系アーティストと異なり、表情の描き方が独特。自然ながらどこかオーバーで、読んでいるこちらにもパネルの中に描かれた登場人物の心情が手に取るようにわかるため、誰の愛情が誰に向かっているかが明確に示されており、登場人物の行動に説得力がもたらされている。

 一方、 Whedon とアーティスト Michael Ryan による今回のストーリーはと言えば Whedon の描くキャラクターは誰もが行動指針らしいものを持っていても、それは欲や使命感であったり、愛であってもその矛先が自分に向いていたりと少々まとまりにかける。 Ryan のアートにしても必ずしも表情から心情が読み取りやすいとは言い難い。100年前にタイムスリップした先で出会った少女 Lillie と恋に落ちた Victor の背中を後押しするつもりだったという Nico の行動などは若干理解に苦しむ。こういった部分がおそらく差として現れたのだろう。

 愛情で結びつき、互いに影響し合う6人家族の物語はまだ続く。が、本連載ではこの第2シリーズ終了という節目を持って一端区切りとしたい。Vol.3も手元にあることはあるので CIVIL WAR や SECRET INVASION とのタイ・インとかも含めてまた気が向いたらやりますわ。

 まあ、興味が湧いた方は合本を手に取るなり今度始まる新シリーズを読んでみるなりして頂ければ。


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