VISUAL ROCKETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

Y THE LAST MAN VOL.3: ONE SMALL STEP (DC/Vertigo, 2003-04, #11-17)

 地上から男は一掃されたけど、じゃあ地球の外は?


原書合本版(旧版)(Amazon): Y: The Last Man, Vol. 3: One Small Step

  Marrisville での辛い別れを後に、再び Mann 博士の研究のバックアップがあるサン・フランシスコを目指す Yorick ら一行。西海岸へ向かう列車に乗り合わせたロシア人 Natalia Zamyatin と出会った3人は、彼女の口から間もなく任務を終えた宇宙飛行士らが地上に落ちてくることを聞かされる。しかも3人の宇宙飛行士のうちの2人は生きた男性だという……。(『 ONE SMALL STEP 』編)

 メガヒットクリエイター Brian K. Vaughan の最高傑作とも謳われる、地上最後の男が巡る数奇な旅路を描いた本シリーズ。その3巻目となる本巻は男2人を含めた3人の宇宙飛行士の地球への帰還を支援するべく Yorick らが奔走する『 ONE SMALL STEP 』編、そして未だテレビなどの娯楽が復旧していない世界で創作劇を催しながら各地を巡る旅の一座が「地上最後の男」をテーマにした新作を創る『 COMEDY & TRAGEDY 』編の2エピソードを収録する。

 ライティングは無論一貫して Vaughan が担当しているものの、ペンシルは今回 Pia Guerra が前者を、 Paul Chadwick が後者を手がける形。しかし、その割に作画の違いが目立たないのはインクの Jose Marzan, Jr. のおかげだろう。

 つい先日もどこぞのマーベラスな大手出版社の編集者がコミックにおけるアーティストの存在を軽視するような発言をしたことで炎上し話題になったのは記憶に新しいが、そのアートを手がける者達の中でも、もっぱら読者の話題に上るのはペンシラーで、それ以外のカラーリストやレタラーといった役職は滅多にスポットライトを浴びることがないというのが残念ながら実情だ。だが彼らの存在がコミックという媒体が成立させている大きな要素であることは間違いないわけで。

 そして、インカーもそんな縁の下の力持ちな役職の1つだ。
 本巻を例にとっても、2つのエピソードでペンシルが異なっているにも関わらず、 Marzan のインクが共通しているため読者の受ける違和感は大きく軽減されている。彼のインクは濃淡が比較的はっきりしているため色彩豊かなページにもノワール・フィルムが如き強調を絵にもたらし、派手なマスクやコスチュームを身に付けた特殊能力者が登場しない本作のような作品における人間ドラマをより豊かにしている。

 こういった普段目立たない役職のおかげで名作が生まれているのだという事実を、私達読者はもっとよく知っておくべきだろう。


本記事で紹介した内容含む原書合本版(新装版)(Amazon): Y: The Last Man: Deluxe Edition Book Two (Last Man Deluxe)