VISUAL BULLETS −今日のアメコミ−

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Y: THE LAST MAN VOL. 5: RING OF TRUTH (DC/VERTIGO, 2004-05, #24-31)

 世界中で彼だけが生き残れた理由は……?


原書版合本(Amazon): Y: The Last Man, Vol. 5: Ring of Truth: 0

 自衛のためとは謂え、遂に初めて人を殺害してしまった Yorick 。良心の呵責に耐えかねた彼はとある晩、 355 らの目を盗んで近くの教会へ足を運ぶ。そこで彼は元フライト・アテンダントをしていた Beth という女性と出会い、心を通わせていく。
 一方その頃、カルト集団により施された洗脳を解かれた Yorick の姉 Hero は、隙を見て脱走すると弟の行方を追い始めるが……。

 男の一掃された世界で地上最後の男となった青年の珍道中を描く Brian K. Vaughan の傑作シリーズもはや五巻目。
 今回の合本に含まれているのは教会へ犯した罪の告解のためやって来た Yorick が逆に本命と同じ名前の女性とむしろさらなる一線を超えてしまう『 TONGUES OF FLAME 』編、そんな乱れた弟の後を追う元サイコな姉ちゃん Hero のこれまでの足取りを追う『 HERO’S JOURNEY 』編、それに Yorick が原因不明の病に倒れる傍らエージェント 355 が別の諜報員と過去の任務を巡って対立する『 RING OF TRUTH 』編の3つ。

 今回も今回で色々起こっており、この次から次へと重大な局面で読む者の息をつく暇も与えない密度の濃さこそ Vaughan の持ち味と言えるが、その中でも3つ目のエピソードは特にこれまで謎だった Yorick 生存の謎が解き明かされるという点でシリーズ全体のターニングポイントとなっているかと。
 他方、キャラクター構築という面では前巻の SM セラピーである程度曝け出しきった Yorick は今回やや身を引き、姉の Hero やエージェント 355 など他のメインキャラクターが焦点となっている印象。

 本シリーズを読み進める中で1つ興味深いことは母性の希薄さだ。男が死に絶え女ばかりの世界が舞台であるにも関わらず、本作の旅にはこれといった”母親”的なキャラクターが登場しない。
 一応母親になる登場人物はいるものの、主人公たちにとって”母親的存在”になるキャラクターもいなければ、彼らの母子関係にあまりスポットライトが当てられないと言おうか。

 それは Yorick と Hero の家族を見ても明らかで、2人の母親は姿こそ見せるもののそれはどちらかと言えば職務である議員としての姿であり母親としての彼女はあまり描かれない。子供たちとの関係性という面についても強調されるのは死んだ父親との関係であり、母親とのギクシャクはかなり脇に追い遣られている。

 そんな中、本作で唯一”母子関係”を描いていると言えるかもしれないのが『 HERO’S JOURNEY 』編で描かれる Hero と、彼女の疑似母であると同時にその手で殺害された The Daughters of Amazon のリーダー、 Victoria との関係だ。
  Amazon の洗脳が解けた後も”毒親”であった Victoria の存在が自分の中に色濃く影を落とす Hero の葛藤はかなりリアルで恐ろしいものがある。

 こうしたテーマ的な話から本作を読み進めてみるのも面白いかもしれない。