VISUAL BULLETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

NEONOMICON (AVATAR, 2010-11, #1-4)

 魔術師 Alan Moore の描く現代ホラー。


原書版合本(楽天): Alan Moore's Neonomicon ALAN MOORES NEONOMICON ORIGINA [ Alan Moore ]

 現場が重なり合うように発生した3つの大量殺人事件。加害者にも被害者にも一見何の関連もなさそうな本作の繋がりを探るべく捜査に乗り出した FBI 捜査官の Aldo Sax は、だがとあるクラブへ潜入したのを最後に連絡が途絶え、後日他の犯人達と同じく複数の者を猟奇的な方法で殺害し逮捕される。彼の捜査を引き継いだ Brears と Lamper は Sax が消息を断つ前に接触したとされる Johnny Carcosa なるドラッグの売人を追い詰めようとするが……。

 コミック界屈指のライターであると同時にマジシャン(シルクハットからウサギを取り出す方じゃなく、ガチでオカルト方面の方な。私自身長らく誤解していたので念のため)としても名を馳せている Alan Moore による Cthulhu 系コズミック・ホラー。
 先に決して子供向けでもなければ必ずしも万人向けでもないことだけ断っておく。

  H.P. Lovecraft の原典に対し、彼の系譜を継ぐ作品群があまり触れてこなかった人種差別的な要素や性に対する嫌悪を正面から描こうとしたという本作。中々キワドいシーンも少なからずあり、 Avatar みたいな出版社でなければ刊行は難しかったろうなと思わないでもない。

 アーティストの Jacen Burrows は主に Avatar で本作のようなホラーを中心に手がけるアーティストで過去には Warren Ellis なんかと組んだこともある知る人ぞ知る描き手。ホラー・アーティストとして人間クリーチャー問わずグロテスクに描くことができるのは当然ながら、それ以上に表情の描写が実に秀逸。物語に翻弄されるキャラクターが時に怯え、時に逆ギレして残酷になる情動が浮き彫りになる。こういう人間を描くのが上手い方は基本的に何やらせても上手。おそらくホラー以外のあらゆるジャンルでも大活躍することができるであろう御仁です。

  Moore のライティングに関して言えば、少し前に紹介していた SMALL KILLING ではやや控えめな印象を受けた、しつこいくらい丁寧なモノローグが本作では見事に復活している。この人、比喩や言い回しがずば抜けて上手いんだよ、ホント。一度ハマると一語一句呑み込むようにじっくり読みたくなる。本作でも筋は比較的ストレートながら、この言葉のシャワーが施されることでぐっと深みが増している。

 あと、オチのつけ方。 Moore のオチのつけ方は他の 2000A.D. 出身のライター達と同様とても上手いんだけれど、 Moore はその中でも群を抜いて秀でている。短編で鍛え上げられた魅力が長編でも発揮されているのを見るのは純粋に楽しい。

  Lovecraft の作品群にオカルティストとしての Moore 独自の解釈を加えた本作。ダークな物語ではあるものの、傑作であることは疑いようがない。 Cthulhu 好きはもちろんのこと、むしろそうでない人にこそ読んで欲しい作品。