VISUAL BULLETS −今日のアメコミ−

STILL TALKIN' ABOUT COMICS

Y: THE LAST MAN VOL.9: MOTHERLAND (DC/VERTIGO, 2006-07, #49-54)

 色んな感情が綯い交ぜになるセミ・ファイナル。


Y: The Last Man, Vol. 9: Motherland

 紆余曲折の末、ようやく Ampersand との再会を果たした Yorick 。 Allison の研究も( Ampersand が交尾したことで)軌道に乗り、人類の次世代を生み出すため展望が拓けてきたことで晴れて恋人 Beth の待つパリへ行けることとなった彼だったが、順風満帆と思われていたところで Allison が突如昏倒、更に彼女を介抱していたところ女忍者の Toyota に襲撃された一行は囚われの身となってしまう。やがて病室に拘束された Yorick と Allison の前に姿を現した驚くべき人物とは……。

 もう流石に地上最後の男云々という前振りも必要ないだろう9冊目。あっと驚く事実が明らかになったり、これまで旅路を共にしてきた仲間との別れがあったりと盛りだくさんの内容で、読み応えたっぷりであると同時にシリーズが終わりに向かっていることをひしひしと感じられ、なんともやるせない気分にさせられた。
 また、本巻は Allison の両親による科学の暴走が中々不気味に演出されており、マッドサイエンティストの話が好みな私としてはそのあたりも堪能できました。いやあ、やっぱマッドサイエンティストが自分の研究を晒す瞬間ってキモいクリーチャーを目にした時とは全く異質な薄ら寒さがあって、これはこれでいいねえ。
 
 本筋の方がそんな密度の濃い内容になっている一方、例のごとく差し挟まれるサイドストーリーは面白いことに、これまでだと後々本筋へ影響を及ぼす人物の過去話だったりしていたのが、ここに来て全く関係のない文字通り”サイドストーリー”と化している。
 1つは現在遺体収拾業に携わる元スーパーモデルと現在男娼として生計を立てている2人の出会いを、もう1つは地上最後の男をテーマにした舞台で一躍売れっ子となった劇作家の顛末を描いたエピソードにそれぞれなっており、どちらのエピソードの主要人物も以前シリーズに登場したことのある人物であるものの、今後のストーリーには全く絡んでこない。
 
 まあ今更本筋に絡んでくる話をやっても手遅れだということもあったかもしれないが、それ以上に Vaughan がこれまでストーリーに盛り込みたくとも遂にこれまで盛り込むことのできなかったメッセージ的なものを多分に盛り込んだエピソードといった印象を受けた。一度は映像業界にまで上り詰めた劇作家が最終的に作品発表の新天地として辿り着いた場所については、1人のコミックファンとして嬉しい限りでした。

 さて、いよいよ残すところ合本1冊となった本シリーズ。これまで積み上げてきたものをどのようにしてまとめ上げるのか刮目して見届けたい。