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THE FLASH: ROGUES (DC, #177-182, 2001-02)

 誰に向けて物語るのか。


Flash, The: Rogues

 FBIから新たにKeystone City警察のメタヒューマン対策課へやってきたプロファイラーHunter Zolomon。彼はこの街に根付くスーパーヴィランの一派、通称Roguesらの存在に興味を抱き、持ち前の洞察力を生かしてWally West a.k.a The Flashらと共に数々の事件を解決へ導く。しかし、一見無関係に見えるこれらの事件は全て裏で繋がっており……。

 現在躍進を続けているDC REBIRTHの立役者であるGeoff Johnsが、これまたREBIRTHの着火点の役を担ったWally West、彼がFlashとして活躍していた時の姿を描くラン。本巻に収められている各エピソードはどれも緩く繋がった1話完結ものとなっており、Flashらしいスピーディな展開を楽しむことができる。
 JokerやRiddlerといったBatmanの敵役などと比べるとFlashが相手をするRogues達はやや知名度に劣るものの、誰が読んでもわかるようそれとなくストーリーに交えて解説を加えてくれる丁寧さが読んでいる身としては嬉しい。

 このようにJohnsの手がけるストーリーは本作のみならずどれも門戸が広く、新規参入者から長年のファンまでもが楽しめる作りとなっている点に大きな魅力があるのは間違いないだろう。往々にしてDCのような長い歴史を持つ世界観ではどうしてもそれを活かして既存の読者に媚びるか、或いは冒涜者扱いされるのを覚悟の上でそういった要素をあらかた放り出し新天地を開拓するかのどちらかになりがちだ。
 そんな中、Johnsは新しいヴィランも昔ながらのヴィランもバランス良く登場させ、またシンプルながら過去の事件をバックに背負っているようなストーリーを作ることでファンとしての深度に関わらず誰もが楽しめる物語を編み出している。

 また、彼がFlashのステータス・クオを固定させていない点も注目に値する。何だってそうだが、日頃馴染んでいるものほど変化をもたらすのは難しい。スーパーヒーロー物でも主人公の人間関係や世界観に変更を加えることはよもすれば読者からの反感を招きかねないため、かなりリスキーな動きと言える。
 よくあるのはランの初期にステータス・クオを散々引っ掻き回した後、伝統回帰を最終目的地として物語を進めていくパターンだが、Johnsはそうでなく例えばランの途中でVic Stageや2代目FlashことBarry Allenの妻Irisなどを新たにサブキャラとして登場させたり、またWallyの妻Lindaに新たな道を歩ませたりと公私共にWallyの日々へ刺激を与える。
 そしてこうした変化を導入してもファンから反目を浴びないのはひとえに各々のモラルというか精神的支柱が不動であるから、ひいてはJohnsがFlashというヒーローをしかと理解しているからだ。

 最終的にどこへ到達するか全く予想もつかないこのランを今後も追っていくことにしよう。